介護福祉士への社会的サポートを

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第33回介護福祉士国家試験の結果が公表されました。合格者は5万9975人で、昨年からほぼ横ばいの数字となりました。4年前、実務経験ルートでの実務者研修義務づけで受験者・合格者ともに急減してから、依然として回復は鈍いままとなっています。

受験者・合格者数「横ばい」がもたらすもの

このまま合格者数の横ばいが続くとしましょう。団塊世代が全員75歳以上を迎える2025年までに、計算上では約24万人の介護福祉士が誕生することになります。

ちなみに、介護職員全体のうち介護福祉士の割合は、2018年度時点で特養が6割、通所介護で4割となっています。2025年までに国が目指す介護人材数は、あと4年で約40万人。そのうちの6割を介護福祉士とすれば、ちょうど24万人という数字になります。

一見、国が目指す数字には何とか届くように思われます。しかし、登録者がすべて現場で働くわけではありません。2015年に社会福祉振興・試験センターが実施した調査によれば、介護福祉士の登録者のうち、約2割が「介護・福祉分野以外の仕事に就労」もしくは「仕事をしていない」と回答しています。

つまり、受験者・合格者数の「横ばい」が続けば、現場の介護福祉士は目標より2割足らない状況となるわけです。

サービス提供体制強化加算も拡充されたが…

こうした「介護・福祉分野に就労していない人」に対し、国としても「呼び戻し」の施策を展開しています。たとえば、離職した介護人材の再就職準備金貸付事業(返済免除付き)を行なったり、離職した介護福祉士に対して都道府県福祉人材センターに「氏名・住所等の届出」の努力義務を課しています。

また、今改定ではサービス提供体制強化加算の見直しが行われ、介護福祉士の配置割合などをさらに引き上げた上位区分が設けられました。短期入所系や施設系サービスでは、介護福祉士の割合を「6割から8割」に引き上げたうえで、従来区分より1日あたり4単位の上乗せが行われます。

これにより、大規模法人などでは介護福祉士を厚遇で採用するケースも増えることが期待されます。これにより、「就労してない介護福祉士の呼び戻し」をさらに後押ししようというものです。また、これから介護現場で働く人の「介護福祉士取得を目指す」という意欲の向上も図られることになります。

介護福祉士が増えない中で起こりえること

もっとも、介護福祉士を目指すキャリア志向が順調に広がっていけば……という「ただし書き」が付きます。上記のような施策にもかかわらず、受験者数が「横ばい」のままだったり、「呼び戻し」がうまく行かないとなれば、今改定による悪影響も心配されます。

母集団が現状のままとなれば、限られた人材を大規模法人が「抱え込む」ことにもなりかねません。法人規模が小さければ、熱心に介護福祉士を養成しても大規模法人に引き抜かれてしまい、加算が取れずにますます運営が厳しくなる流れも生じるでしょう。

そして、上記のような「ただし書き」の状況が生まれる余地は小さくありません。注意したいのは、介護福祉士を取得することで「リーダー」を任された場合の実務状況です。

今改定では、感染対策や災害時等におけるBCP、高齢者虐待防止、施設における介護事故防止など、現場に多くの義務が定められました。確かに、一定の経過措置期間なども設けられてはいます。しかし、こと感染対策においては、地域の新型コロナの感染状況次第で「待ったなし」の対応を迫られがちです。

ここに、加算実務では、科学的介護(LIFE)への対応が加わります。情報入力のための内部研修などを行なうといった取り組みもおのずと増えていくことになります。

介福士が持ちえる能力を発揮できるために

いずれも、現場リーダーの実務を増やすとすれば、新たな入職者等の「介護福祉士になる」という意欲を削ぐ恐れもあるでしょう。

特に規模の小さな法人では、リーダー1人あたりに任される実務量も膨大になりかねません。となれば、(任務が集中しにくい)大規模法人に移るという流れも生じやすくなります。法人規模による介護福祉士格差が、待ったなしで加速する懸念も高まるわけです。

こうした状況を防ぐには、改定によって増大しがちな現場実務を国や保険者がきちんと測定したうえで、「実務の外部委託」を行ないやすくするしくみが必要です。

たとえば、昨年の法改正で誕生した社会福祉連携推進法人も、こうした枠組みの中での活用も想定されています。複数の小規模法人が連携しつつ、保険者等のサポートも加えながら、「現場リーダーが1人で実務を抱え込まない」ための体制をつくるわけです。

介護福祉士は、社会にとっても貴重な人的資源です。彼らがその能力を如何なく発揮できるよう、一人ひとりの実務量に目を配り、地域全体でサポートをしていくという体制を一刻も早く築くことが必要でしょう。コロナ禍の今だからこそ求められている課題です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。