ケアマネ改定実務で注意すべき点

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2021年度の介護報酬・基準改定の解釈通知等が示されました。対応に必要な実務はひと通り明らかになったわけです。その一方で、現場において混乱が生じがちな課題も残ります。今後発出される疑義解釈で、ケアマネとして点検したいポイントをピックアップします。

事業所集中率等の説明、いつ行えばいい?

今改定でケアマネが特に気になるのは、「集中減算対象サービスにかかる新たな説明責任」でしょう。説明を要するタイミングは、「居宅介護支援の提供開始時」とされています。では、2021年4月以前に契約を結んでいた利用者に対しては、どうなるのでしょうか。

この点については、2018年度改定で疑義解釈が示されています。2018年度にやはり新たな説明責任(利用者は複数事業所の紹介を求めることが可能であること等)が定められた際のケースです。それによれば、「2018年4月以前に契約を結んでいる利用者」に対しては、「次のケアプランの見直し時に説明を行なうことが望ましい」とされています。

恐らく上記の解釈が準用されることになりそうですが、「望ましい」という表現のあいまいさが残れば、混乱要因となりがちです。

また、いわゆる「ケアプランの軽微な変更」の場合はどうなるのかについても注意が必要でしょう。「軽微な変更」の中には、「目標もサービスも変わらない、単なる事業所変更」も含まれます。ただし特定の事業所の選択が絡むなら、今改定の趣旨として、やはり「説明責任が生じる」という解釈も成り立ちます。

新たな説明責任で、利用者からの署名は?

次に注意したいのは、利用者の「署名」についてです。改定の概略を示した資料では、署名・押印について「求めないことが可能」となっています。ところが、先の「利用者への説明責任」に関し、解釈通知では以下のように表記されています。「(利用者が)理解したことについて、必ず利用者から署名を得なければならない」というものです。

そこで、改めて改定基準を見ると、新設された第31条では、説明・同意や「これらに類するもの」について「書面に換えて電磁的方法によることができる」とされています。

この場合の電磁的方法とは何でしょうか。解釈基準によれば、以下のようになります。たとえば、「電子メールによる意思表示(これを保存する)」「電子署名の活用」、さらに昨年6月に内閣府等が示した「押印についてのQ&A」を参考にすることとされています。

以上の点から、利用者が電子メールに対応できなかったり、事業者が電子署名に対応していない場合は、やはり「従来のような署名が必要」になると考えられます。(この点については、現在厚労省に確認中です)

サ担会議でのICT活用、困りがちなケース

次にケアマネにとって気になるのは、サービス担当者会議の取り扱いでしょう。改定された基準では、ICT(テレビ電話等)活用での開催を可能としています。ただし、利用者や家族が参加する場合には、ICT活用について利用者等の同意を得ることが必要です。

これも、現場が振り回されがちなポイントの一つでしょう。なぜなら、やはり改定の概略では、ICT活用対象の会議等について「利用者の居宅を訪問しての実施が求められるものは除く」と明記されているからです。

もちろん、正式に公示された基準で「ICT活用」が可能となったわけですから、これに従えばいいということになります。ただし、それでも課題は残ります。

たとえば、利用者はICTを使えないが、「ケアマネが家に来て設定してくれるなら、それで行なってもいい」というパターンです。そうなれば、結局ケアマネはサ担会議のために利用者宅を訪問し、ICT開催の準備を整えつつ、場合によって会議用レジメなどを参加者に送付しておかなければなりません。

さらなる問題は、各担当者が「ICT開催」を希望する一方、利用者の同意が得られない場合です。新型コロナ禍での柔軟な取り扱いが適用される可能性があるとはいえ、ケアマネとしては板挟みになりかねません。

退院カンファへの福祉用具専門相談員参加

もう1つ注意したいのが、退院・退所のカンファレンスに、必要に応じて福祉用具専門相談員が参加することが定められた点です。

この場合のカンファレンスとは、居宅介護支援の退院・退所加算の算定要件にかかわるものです。つまり、利用者が退院・退所後に居宅で福祉用具を活用する可能性が高いケースでは、福祉用具専門相談員の参加が「加算の算定上求められる」ことになるわけです。

となれば、ケアマネとしては、実際に福祉用具貸与を要することになるか否かにかかわらず、福祉用具貸与事業者に「カンファレンス参加」をお願いしなければなりません。

お願いする先は、利用者が入院前に使っていた福祉用具の事業者ということになるでしょう。ただし、新規での利用となれば、さかのぼって利用者との間で「事業者選定」について話し合わなければなりません。

今改定では、こうした実務上の疑問が、他にもいろいろ増えていきそうです。厚労省には、これまでの改定以上に詳細な疑義解釈の発出が早急に求められます。地域のケアマネ連絡会等でも、行政担当者を交えて「解釈のすり合わせ」を行ないたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。