いずれ居宅にも?施設系の改定加算

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施設系における報酬改定で、居宅のケアマネなども注意したいポイントが2つあります。1つは、新設された自立支援促進加算。もう1つは、アウトカム評価が導入された褥瘡マネジメント加算と排せつ支援加算です。いずれのしくみも、近い将来に居宅のケアマネジメントまで波及する可能性があります。

「小さく生んで大きく広げる」法則が再び?

介護保険の先行きを読むうえで、たびたび上がるポイントがあります。それは、「小さく生んだしくみを、数回の改定を経て大きく広げる」という施策の方法です。

たとえば、2012年度に訪問介護で誕生した生活機能向上連携加算が、連携対象の要件拡大を経て、2018年度の改定で多くのサービスに一気に広がりました。その2018年度改定で通所介護に誕生した「アウトカム評価」のADL維持等加算は、今改定で特養ホームや特定施設入居者生活介護に拡大しています。

では、今回の改定でこうした流れがとられる可能性のあるしくみは何でしょうか。これが、第1のポイントとなる施設系サービスで誕生した「自立支援促進加算」です。

この加算は、入所者の中から「特に自立支援のための対応が必要な人」を選び、個別ケアや寝たきり防止に資する取り組みを重点的に行なうことを評価したものです。この重点ケアの対象者だけでなく、入所者全員に算定できるという点では大きな加算といえます。

自立支援促進加算で注目したい2ポイント

この新加算の理念では、重度化しても「寝たきり」状態を防ぎ、その人の尊厳を確保することが強調されています。一方で、算定実務という点に目を移すと、厚労省が目指す制度上の位置づけが浮かんできます。

注目点の第一は、利用者全員に対して「医師が定期的に医学的評価を行なう」ことが入口要件となっていることです。これまでも自立支援系の加算で「医師の関与」が要件となっているものはありました。しかし、この加算については、「利用者全員に対して、定期的に」という広範な取り組みが特徴です。

注目点の第二は、やはり要件となっている介護DB「LIFE」へのデータ提供とフィードバックの活用についてです。先だって示されたデータ提供の様式を見ると、他の自立支援系加算と比較して大きな特徴が見られます。それは、利用者の状態像だけでなく、「どんな支援を行なったか」という支援実績について細かくチェックする欄があることです。

「医師の関与」と「支援実績のデータ反映」

以上の実務から言えることは、以下の2つです。(1)サービス利用の入口および一定期間ごとに、すべての利用者に対して「医師の見立て」を強化すること。(2)LIFEへのデータ提供に際して、「支援実績」までデータベースに反映させやすいしくみを整えたことです。

この「医師の関与」と「支援実績のデータ反映」という点を、他サービスへと広げていくことが考えられます。今回の「自立支援促進加算」という枠組みでなくても、既存の自立支援系加算に、先の2つのポイントを明確に組み込んでくる可能性はあるでしょう。

たとえば、通所介護等の個別機能訓練加算に際して、「医師による医学的評価」を定期的に行なうことを要件とする。LIFEへのデータ提供に際しても、現状で示されている自由書式に加え、「支援実績」がチェックできる欄を設けていく──などが考えられるでしょう。

多くの加算に、こうした実務要件が広がっていくとすれば、将来的には居宅のケアプランも視野に入ってきます。課題や目標の設定に際して「医師の医学的評価」の反映を明確にしたり、ケアプラン作成ソフト(AI含む)とLIFEの連携を強化する動きも想定されます。2022年度の診療報酬改定(診療情報提供料の行方)や、国がAIプランをどこまで制度に組み込むかなどに注意が必要です。

ゆくゆくはケアプランにもアウトカム評価?

2つめのポイントが、報酬上のアウトカム評価の拡大です。先に述べたように、ADL維持等加算に加え、今改定では褥瘡マネジメント加算や排せつ支援加算にも導入されました。

先々をにらんだ場合、居宅系として注意したいのは、やはり自立支援系の既存加算に「アウトカム評価」を要件とした区分が広がる可能性です。たとえば通所介護で、ADL維持等加算だけでなく、口腔や栄養に関する加算(口腔機能向上加算、栄養改善加算など)でアウトカム評価区分が生まれるかもしれません。

こうした加算の多くも、やはりLIFEとのデータ連携が要件として設定されました。これによりデータ集積が進めば、アウトカム指標にかかる議論も進めやすくなります。

昨年8月、厚労省は「リハビリ提供体制に関する検討会」の取りまとめを受けて、リハビリ提供体制の構築の手引きを作成しました。その中で、「検討中」とはいえ、アウトカム指標の候補(主観的幸福感や社会参加への移行なども含む)がすでに示されています。

このアウトカム指標の議論が活発になれば、ゆくゆくは「ケアマネジメントにもアウトカム評価を」という論点が浮上するかもしれません。現場のケアマネとしても、(国からのトップダウンに振り回される前に)「ケアマネジメントにおけるアウトカム指標はどうあるべきか」について、地域の協議会・連絡会等で意見を寄せ合っておきたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。