震災後10年、BCP等義務化の中で

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多くの人命が奪われた東日本大震災から、10年が経過しました。その後も大きな自然災害が頻発する中、支援専門職であるケアマネにはどんな心構えが必要でしょうか。今改定で課せられた業務継続計画(BCP)作成などを含め、平時からの対応について整理します。

居宅介護支援におけるBCPのポイント

厚労省のHP上で、介護施設・事業所におけるBCP作成支援に関する研修動画がアップされています。言うまでもなく、2021年度の介護報酬・基準改定で、業務継続に向けた取り組みにかかる全サービスでの義務化を受けたものです(3年の経過措置あり)。

研修動画の中の自然災害編では、居宅介護支援についての固有事項も上がっています。

たとえば、平時からの対応ポイントとしては、主に以下の5点が示されています。(1)優先的に安否確認が必要な利用者情報の把握、(2)複数の緊急連絡先の把握、(3)地域の避難所・避難方法に関する情報への留意、(4)地域の関係機関との検討・調整、(5)避難所における薬情報の参照に向けた配慮といった具合です。

また、災害発生に際しては、事業が継続できる場合に可能な範囲で、「個別訪問等による早期の利用者の状態把握」等を求めています。

大規模・広域の災害下を想定した準備とは

これらは、過去の自然災害で、実際にケアマネが行ってきた取り組みに沿ったものといえます。たとえば、地域の高齢者(特に要介護者等)の安否確認について、ケアマネの機動力が功を奏した事実も多々あります。

とはいえ、そこには多くの困難も立ちはだかります。東日本大震災のように被害規模・範囲が極めて大きい場合、ケアマネの初動も限られます。ケアマネ自身が被災者となり、事業所の動きが取れないケースもあります。

また、原発事故にともなう広域での緊急避難が行われた中、地域の高齢者がバスに乗り込み、何100キロも離れた地域に一昼夜かけて移動したという例もあります。中には、重度の要介護者もいて、体調を崩したり不幸にして移動中に亡くなられた方もいました。

こうした中では、先に述べたBCPのポイントも役立たない状況も生じてきます。災害支援ケアマネジャーの研修で示されている「災害初動期の状況報告シート」でも、「ケアマネの被災状況」や「安否確認がとれない高齢者の状況」を記す項目があります。「期待される行動がとれない」という状況そのものを共有することが出発点となっているわけです。

限られた条件下で「できること」の思考訓練

こうした大規模災害時での厳しさを想定した場合、「非常時の体制や動き方」をマニュアル化すると同時に、ケアマネ一人ひとりの職能的な感度を高めていく必要があります。

どういうことかといえば、「極めて限られた動きしかとれない」あるいは「得られる情報もごくわずかである」といった状況下で、「専門職として最低限何ができるのか」を思考する訓練が求められるということです。

たとえば、インフラが停止し移動・通信網なども寸断され、利用者がどこにいるのかも分からないといった状況があるとします。当然、思考も混乱するでしょう。そうした中で、「できることは何か」「どこから手をつければいいか」を順序だてて考えることは困難です。

だからこそ、平時からさまざまなシチュエーションを想定したうえで、「そういう状況下で取るべき行動」について、事業所内や地域で意見交換をしながら「自身の発想」の器を広げていく習慣を築きたいものです。

そもそもケアマネジメントでは、「利用者の生活のこの部分が失われたらどうなるか」といった「いざという時」のシミュレーションを常に働かせることが重要です。その意味で、上記のような思考訓練は、ケアマネジメント力を鍛えることにもつながります。

BCP作成などが義務化される中、「やらされ感」だけが募れば、実のあるものはできません。「ケアマネの日々のスキルアップ」との共通項をいかに見つけるかがカギといえます。

組織の体質そのものが問われている

もう一つ、事業所での非常時対応のルールづくりに、欠かせないことがあります。それは、「従事者やその家族の命を守ること」が何より最優先されるという大原則です。

「そんなことは当たり前」と思われるかもしれません。しかし、人は冷静な判断力を失うと、いろいろな思考が混ざり合い、「命を守る」手順が前後してしまうこともあります。

これを防ぐには、「その時に自分や家族の命を守るうえで必須のこと(避難手順や身を守るすべなど)」を最優先ルールとして強く打ち出しておくことが必要です。たとえば、「一瞬の迷い」が生死を分けることもある中では、「命を守る手順」と「その他のルール」をマニュアル内で混在させることは、大きな危険につながると認識すべきでしょう。

従事者自身が身を守れずして、業務継続はありえない──このことを事業所や母体法人が強く意識し、従事者に日頃からしっかり宣言できるかどうか。言い換えれば、組織の体質そのものが問われているともいえます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。