特定事業所加算・新要件の「布石」

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2021年度改定では、感染症対応や科学的介護の推進がクローズアップされています。一方、3年後の改定に向けて、大きくは目立たないものの「布石」とも言うべきポイントもいくつか見られます。ケアマネ関連でいえば、特定事業所加算に設けられた新たな要件です。

「多様な主体により提供されるサービス」

この特定事業所加算の新要件ですが、算定基準で示された内容は以下の通りです。

「必要に応じて、多様な主体により提供される利用者の日常生活全般を支援するサービスが、包括的に提供されるような居宅サービス計画(ケアプラン)を作成していること」

この場合の「多様な主体により提供される利用者の日常生活全般を支援するサービス」とは何でしょうか。基準上の( )記載では、「介護給付等対象サービス以外の保健医療サービス、福祉サービス、地域住民による自発的な活動によるサービス等」となっています。

当然ながら、思い浮かぶのは地域支援事業などによる保険外給付サービスでしょう。「地域住民による自発的な活動」といえば、総合事業(第1号事業)における訪問型・通所型のB類型が該当すると考えられます。

給付サービスの総合事業移行の拡大を想定?

上記の第1号事業については、昨年の省令改正で「要介護者(介護給付対象者)の利用」が明記されました。改正省令では、「要介護認定を受ける以前から第1号事業を受けている人」に限定されてはいます。とはいえ、給付外サービスの一環としてケアプランに組み込みやすくなったことに変わりはありません。

注意したいのは、先々において「新規で第1号事業を受ける」というケースまで拡大される可能性もあることです。財務省などは「要介護者のサービスの総合事業への移行」の範囲を拡大することを目指しており、3年後の改定でもその圧力は継続されるでしょう。

となれば、上記のような施策変更を見すえて「ケアマネジメント上の受け皿」を整えておく必要があります。それが、今回の特定事業所加算の新要件と位置づけられます。

省令で示された「保健医療サービス」の意味

もう1つ重要な点は、「多様な主体により提供されるサービス」の中に「保健医療サービス」が含まれていることです。思い浮かぶのは、総合事業における訪問・通所型のCサービス(短期集中予防サービス)となるでしょう。しかし、「それだけではない」という可能性にも視野を広げることが必要です。

ここで思い起こしたいのが、2019年の法改正で「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施」が可能になったことです。想定されるのは、一般介護予防における「通いの場」に医療職がかかわることで、生活機能の改善効果を図るという取り組みです。

国は、2024年(つまり、3年後の次の改定)までにすべての市町村で、上記の「一体的な実施」を展開させるとしています。

もちろん、「通いの場」などのさらなる整備が必要ですが、この点について市町村へのインセンティブを図る動きもあります。具体的には、第1号事業のサービス価格の弾力化を図るうえで、「一般介護予防(地域介護予防活動支援事業など)に熱心に取り組んでいること」等を要件とするという改革です。

先に述べた昨年の省令改正では、「第1号事業のサービス価格の上限の弾力化」も図られました。この省令改正を展開させる中で、「通いの場の拡充と医療・リハビリ職の関与の強化」が、一気に進む可能性があります。

2022年度の診療報酬改定にも注意

こうした流れを受け、先の「保健医療サービス」の地域における範囲が今以上に広がることを想定しなければなりません。しかも、その保健医療サービスの利用について、連携する医療職から「勧められる」といったケースも増えそうです。ケアプラン上のインフォーマルサービスの組み込みについても、医療職からの助言が強く影響してくるわけです。

これは、先の法改正による「通いの場等への医療職関与が強まる」という事情だけではありません。以前のニュース解説でも述べましたが、昨年政府が閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2020」で示されたテーマが関連してきます。

それは、「かかりつけ医等が患者の社会生活面の課題にも目を向け、地域社会におけるさまざまな支援へとつなげる取り組み」です。これを「社会的処方」といいますが、医療職の関与により「多様な地域資源へとつなげる」流れが加速することになりそうです。

注意したいのは、政府の「骨太の方針」に示されたことにより、2022年度の診療報酬改定で、「社会的処方」に向けた何らかのインセンティブが設けられる可能性があることです。

診療報酬と介護報酬の両しくみをつなげる作業は、これまでも多々行われてきました。2022年度の診療報酬改定によっては、今回の特定事業所加算の新要件の「ややあいまい」な部分が、2024年度改定で詳細に肉付けされることにもなりそうです。今回の改定は何を目指した布石なのか──先読みが必要です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。