居宅介護支援経営におよぶ大波

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2021年度の介護報酬・基準改定の内容が明らかになり、ケアマネジメントの現場でも「実務に生じる変化」などの確認が求められています。今改定で「ケアマネの動き」にどんな影響がおよぶか、それを経営サイドがどのように読み解くかを掘り下げます。

全サービスを通じた「猶予3年」の新実務

当然ながら、改定内容が現場実務に与える影響は経営サイドのビジョンに左右されます。たとえば、先々の制度の行方や収支予測をもとに、「新たな加算等」をどのタイミングで、どのように受入れるか。これによって、ケアマネの働き方も変わります。

今改定は、この経営サイドのビジョンが過去の改定以上に重要なカギとなります。

第一の理由は、全サービスを通じて「3年の経過措置」を経て順守しなければならない基準改定がいくつも誕生したことです。

たとえば、感染対策にかかる委員会開催や指針の整備。そして、業務継続に向けた計画(BCP)の策定や研修・訓練の実施。さらに、高齢者虐待の防止に向けて、やはり委員会開催や指針整備のほか、これを実施するための担当者を配置することなど。

これらを居宅介護支援で実施するとなれば、その事業の特質や地域の実情に沿った取り組みを検討しなければなりません。

加えて、「逓減制の緩和」をどうするか

この場合、「3年後までにやればいい」というものではありません。間際になってバタバタと準備すれば、現場負担はかえって大きくなります。やはり、3年後を見すえて、今から実行のためのルートマップを作り、少しずつ体制を築くことが不可欠です。

第二の理由として、「担当件数の逓減制の緩和」が図られたことです。これについても、経営サイドの先々を見すえたビジョンが大きなポイントとなります。

現場のケアマネの実務負担がどうなるかが見えにくい中、初年度から「逓減制」を適用する事業所は少ないかもしれません。とはいえ、3年後(2024年度)の次期改定を見すえれば、「今改定の反動から、基本報酬が下がる(あるいは、加算の一部が基本報酬に組み込まれる)のではないか」という予測も出てくるでしょう。

となれば、「逓減制の適用」を見すえつつ、要件となる「ICTの採用と業務上での活用」を、今から進める動きも活発になるはずです。(なお、「事務職員配置」については、「事業所間連携での配置も可」となる可能性もあるので、状況を見ながら随時対応していくということになると思われます)

ケアマネジメント上の実務にも大きな変化

このように、「逓減制」についても、3年後を見すえて先の新基準対応などに向けたルートマップに加えていくことになるでしょう。現場のケアマネとしては、(1)感染対策や業務継続、虐待防止にかかる準備や、(2)ICTの日常業務への活用にかかる勉強機会が増えてきます。上記(1)、(2)のための担当者任用が増えていく可能性もあります。

さて、ここに、日常のケアマネジメントにかかる改定も加わってきます。

たとえば、利用者への新たな説明責任としてプラスされたのが、前6か月のプランに位置付けたサービス別や事業所集中の割合です。これは、利用者への情報公開という面もさることながら、データ管理を通じて、事業所集中率を現場に意識させるという目的もあると考えられます。

通所系サービスで、新たな入浴介助加算を算定するとなった場合、利用者の居宅の入浴環境を把握することが必要です。この「確認」する立場にケアマネも含まれていることから、サービス事業所との情報連携のあり方も整理しておく必要があります。

経営サイドが3年かけてなすべきことは?

その他の情報連携に関しては、通所系サービス等で、栄養スクリーニングに口腔スクリーニングの評価を加えた加算が誕生しました。つまり、栄養スクリーニングを通じてケアマネに提供されていた情報に上乗せが図られるわけです。

また、利用者の通院時の医療機関と情報連携、居宅療養管理指導における(「社会的処方」を含めた)情報連携の様式の見直しなど、医療職との情報のやり取りの内容やしくみも数多く変わってきます。

加えて注意したいのが、2022年度の診療報酬改定で、上記の「社会的処方(利用者の地域生活上の課題などを考慮した処方のあり方)」が、あらゆる診療情報提供に影響してくるという可能性です。たとえば、利用者の退院時の医療機関からの情報提供でも様式が大きく変わることが考えられます。

ここまで述べた情報連携等の実務への影響は、一部にすぎません。要するに、多職種とやり取りする情報を、事業所としてどのように整理・管理するかというノウハウの再構築が一気に進むことになります。

こうしてみると、膨大な現場の業務改革を3年かけて同時並行で進めなければなりません。法人としては、現場負担を慎重に見極めないと、ケアマネの「燃え尽き」が加速しかねません。経営サイドとして、現場実務を「広く、深く、そして先々まで」読み込んでいく資質が問われています。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。