管理栄養士の役割拡大が示すこと

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今回の介護報酬・基準改定を見て、ある特定の職種が介護現場へ深くかかわってきたことに気づく人も多いでしょう。その職種とは、「管理栄養士」です。いくつかの報酬上の要件で配置が明確化されているだけでなく、外部連携に際しての管理栄養士の地域拠点などについてもクローズアップされています。

外部の管理栄養士が行なう居宅療養管理指導

今改定で、まず注目したいのは、「外部の管理栄養士」のよる居宅療養管理指導が可能になったことです。定期巡回・随時対応型における外部の訪問看護ステーションとの「連携型」といったケースはあります。しかし、この場合は本体事業所が「介護」を担当して、介護分の基本報酬が算定されます。

本体事業所がサービス提供を管理するとはいえ、実際にサービスをすべて担うのが「外部の担当者」というしくみは、異例と言っていいでしょう。居宅介護支援でいえば、事業所が外部のケアマネと契約して、利用者の担当にあてるようなしくみともいえます。

一方、加算では、GHで栄養管理体制加算が新設されています。これは管理栄養士による介護職員への栄養ケアにかかる技術的指導や助言などを評価したものです。ここでも、管理栄養士については「外部との連携」による確保でもOKとされました。

「外部」管理栄養士が所属する栄養CSとは

この「外部」ですが、一般的に想定されるのは、地域の医療機関やリハビリ系の介護事業所、介護保険施設ということになるでしょう。着目したいのは、ここに地域の「栄養ケア・ステーション」が含まれていることです。

この栄養ケア・ステーションというのは、日本栄養士会が運営する地域住民への栄養指導などを手掛ける拠点です。特定保健指導のほか、医療機関などと連携した患者への栄養食事指導などを行なっています。日本栄養士会が認定する栄養ケア・ステーションは、全国で340か所以上設けられています。

診療報酬では、入院及び外来の栄養食事指導料の算定に際し、この栄養ケア・ステーションの管理栄養士のかかわりを評価するしくみがあります。実は介護報酬でも、先に述べた今改定以前から栄養ケア・ステーションの管理栄養士はかかわっています。

それが、通所系サービスにおける栄養改善加算です。要件となっている管理栄養士の配置が、2018年度改定で「外部との連携」でもOKとなりました。その連携先として、栄養ケア・ステーションが上がっています。今改定で通所介護に誕生した栄養アセスメント加算でも、同様の取り扱いが見られます。

看取りや褥瘡防止でも管理栄養士の役割拡大

こうして見ると、もともと下地があったとはいえ、冒頭の居宅療養管理指導のような踏み込んだ改定がなされたことで、栄養ケア・ステーションの存在は多くの介護現場で認知が深まることは間違いないでしょう。

加えて、今改定では看取り関連の加算や褥瘡マネジメント加算でも、関与する専門職に管理栄養士が明記されました。「なぜ、看取りで管理栄養士?」と思われるかもしれませんが、経口維持の観点で重要な役割があります。

厚労省の調査研究事業などによれば、管理栄養士が手厚く配置されているほど、終末期になっても「口から食べること」の維持が高い傾向が認められます。看取りが近づく中、本人の好きなものが「少しでも口にできる」ことは、「最期までその人らしく」というビジョンに欠かせない支援です。

上記のように、管理栄養士が多様なケアの場面でその実績を証明してきたことが、今改定につながったと言えるのかもしれません。

診療報酬上での実績がやはり影響している?

ここで考えたいのは、一つの職能がどのように「自分たちの役割」をアピールしてきたかということです。今回の管理栄養士でいえば、今改定の前の職能団体ヒアリングでも、日本栄養士会は「栄養ケア・ステーションが果たしてきた役割」などを強調しています。

もちろん、今改定を見る限り、診療報酬面での実績が大きなインパクトになっていることは間違いないでしょう。介護保険への「医療」のかかわりがますます大きくなる中、診療報酬での役割は「医療職側の評価の拡大」につながりやすいからです。

振り返って、やはり専門職能であるケアマネはどうでしょうか。診療報酬にかかわる部分がほとんどないという点では、評価の拡大に向けた道幅は決して広くはありません。

一方で、介護保険が担ってきた「利用者の生活機能と社会参加を後押しする」というビジョンは、今度は「医療のあり方」に少しずつ浸透する兆しが見えます。これを一つのきっかけと見れば、介護保険の要であるケアマネが、診療報酬上の評価に食い込むことも決して不可能ではないはずです。

ケアマネにかかる職能団体が今後打ち出すべきテーマで、「診療報酬」を視野に入れること。そして、地域の保健事業などでの実績を築いていくこと──こうしたビジョンが、ケアマネのこれからを左右するかもしれません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。