コロナで拡大!? 可視化しにくい負担

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2020年全編から現在に至るまで、新型コロナの感染拡大による収入減等は、介護サービスにどれだけの影響を与えているのでしょうか。また、その落ち込みを2021年度からの介護報酬改定で、どこまでカバーできるのでしょうか。今も厳しい状況が進行している中での「これから」にスポットを当てます。

新型コロナ感染による介護事業の収入減

厚労省は、昨年(2020年)2~8月の「対前年同月比のサービス別の保険給付の増減」を示しています。2021年度からの介護報酬改定で、通所系サービスの基本報酬の算定に関する新ルールが打ち出されましたが、その施策のベースとなった統計資料の一つです。

注目は、前回の緊急事態宣言の真っただ中となった昨年5月のデータです。それによれば、老健での短期入所療養介護の保険給付が-34.6%と減少幅が飛びぬけています。ただし、累計受給者数が少ないサービスなので、極端な数字が出ていると考えられます。

累計受給者数が多いサービスでは、やはり通所系サービスでの給付の減少幅が目立ちます。たとえば、通所リハビリで-15.4%、通所介護で-7.7%という具合です。利用者の減少も、前者で-13.9%、後者で-10.9%とともに1割強となっています。

通所系の基本報酬ルール見直しの背景

もっとも6月以降は、保険給付、利用者数ともに対前年同月比で-5%以内に収まっています。通所介護に至ってはプラスに転化しています。つまり、事業所収入に限っていえば、特定の月の減少幅が大きいわけです。

そこで、通所系サービスの新たな基本報酬算定のルールとして、以下の2つが設けられました。(1)算定区分の決定について、「利用者が減少した月の実績」を基準としたこと。(2)対前年同月で「-5%以上」という場合に、3か月間基本報酬に3%上乗せすることです。

こうしたデータをもとにした改定という点では、理にかなっていると言えるでしょう。問題は、基本報酬の引き上げによって、利用者負担が増えるということです。ちなみに、上記の(2)については、区分支給限度基準額に「含まれない」こととなりました。それでも、年金など収入が限られる高齢者のケースでは、負担感が増すことに変わりはありません。

利用者が負担増を納得するために何が必要?

その負担増に納得してもらえるかどうかとなれば、やはり先のような根拠となるデータの周知が必要でしょう。

たとえば、地域で同じ規模の事業所によって、料金が変わってくるということも起こりえます。「近所のAさんは同じ時間帯・利用回数で利用料はこれだけなのに、自分の方はこれだけ高い」ということになれば、「どうしてなのか」という疑問は浮かぶはずです。

こうした利用者の疑念に応えるために、本来であれば、国から自治体への通知によって、保険者からの分かりやすい「理由の周知策」が必要です。そこで、先のようなデータ開示も含めた広報も求められてくるでしょう。

しかし、多くの自治体は(特にワクチン接種などが始まると)、利用料をめぐる周知まで手が回らないことも考えられます。そうなると、結局は「現場に任せる」ことになりかねません。つまり、ケアマネジャーや事業所の相談員などが「広報役を担う」という流れがなし崩し的に形成されてしまうわけです。

今後もますます増える現場の「説明負担」

現在、新型コロナ感染症をめぐっては、ネット上などで真偽の定まらない情報がまん延しています。ケアマネジャーの中には、利用者から「何が正しいのか」といった質問が寄せられるケースもあると聞きます。ここに、先のような「利用料をめぐる根拠」というテーマが絡めば、その対応負担は決して少なく見積もることはできないでしょう。

このように、新型コロナの感染拡大下の「現場任せ」は、さまざまな「水面下の負担」をますます増やしかねません。厄介なのは、こうした相談業務内の負担を可視化しにくいゆえに、国としては「報酬上の上乗せ」といった評価にはなかなか結び付けないことです。

しかし、新型コロナ感染がいつ収束するのか見通せない中、こうした「可視化しにくい現場負担」は、これからさらに蓄積していくことは間違いないでしょう。高齢者へのワクチン接種が始まれば、公的な広報が不十分だと、さらに現場負担は増えかねません。

今こそ必要なのは、新型コロナ感染下における相談援助業務の負担にかかる実態把握を国の責任で行なうことでしょう。そのうえで、安易な「現場任せ」を防ぐための広報戦略を整えることが必要です。予算的には、感染防止だけでなく相談援助の負担増も見込んだ「新たな慰労金」の支給なども求められます。

相談援助業務を担う職能団体としても、利用者とのやり取りにかかる実態調査などを進めつつ、国に新たな予算措置などを求める活動に力を注いでいくべきではないでしょうか。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。