報酬体系の簡素化から浮かぶもの

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2021年度の介護報酬改定では、報酬体系の簡素化が横断的なテーマの1つです。過去に数多くの加算が生まれ制度が複雑化してきましたが、それが現場負担の増加にもつながってきた面もあります。今改定で、どのような「簡素化」が図られたのか。その先にどのような流れが待っているのかを掘り下げます。

「加算の廃止=算定率の高低」だけではない

報酬体系の簡素化といえば、居宅介護支援では、小規模多機能型居宅介護事業所連携加算(看護、予防含む)が廃止されました。「算定率の低さ」などを受けての廃止となったわけですが、この加算より算定率が低いものでも廃止に至らないものは数多くあります。

このあたりは、単に「算定率の高低」だけが問題なのではなく、施策目的やその重要性との兼ね合いがポイントになっているといえます。この「施策目的」、つまり国が介護保険制度をどのような方向に導こうとしているのかについて、注意を払うことが必要でしょう。

この点を頭に入れつつ、今回の報酬改定を見渡してみましょう。上記のように「算定率が低いものを廃止する」というだけではありません。逆に「算定率が極めて高い=算定要件となる取り組みが浸透している」という判断から、「区分を縮小して一部を基本報酬に組み込む」という動きも見られます。

リハ・マネジメント加算Iの廃止によって…

その一つが、リハビリ系(訪問・通所リハビリ)サービスにおける「リハビリ・マネジメント加算」の見直しです。改定前の区分のうちIが基本報酬に組み込まれました(廃止)。

Iについては、訪問・通所リハビリともに算定率が8割を超えています。算定要件が一定程度、現場実務に浸透したと判断されたことによるもので、この旧I要件が、基本報酬の算定要件に定められることになりました。

その要件とは、以下のとおりです。(1)リハビリに対する医師の詳細な指示(指示内容は記録する)、(2)リハビリ計画の定期的な進ちょく評価と見直し、(3)リハビリ職による他の居宅サービスへの留意事項等の伝達です(この場合の伝達は居宅ケアマネ経由となります)。

このIが組み込まれたことで、訪問・通所リハビリの基本報酬は大幅に引き上げられました。訪問リハビリでおおむね5%、通所リハビリでは、短時間区分になると最大で10%前後もの引き上げとなっています。訪問介護のアップ率が1%未満、通所介護でも最大で1.5%程度にとどまっている点と比較すると、その引き上げの大きさがわかります。

歯科医師等の技術的指導も運営基準の中に

さて、もう1つ注目したいのは、施設系サービスにおける口腔衛生管理体制加算です。算定要件は、歯科医師もしくは歯科医師の指示を受けた歯科衛生士が、日常的な口腔ケアについて介護職に技術的指導・助言を行なうというものです。これにより、現場の介護職の口腔ケア技能のアップを図ったわけです。

2021年度改定では、この加算がやはり廃止されます。つまり、歯科医師や歯科衛生士による定期的な指導・助言が、基本報酬算定のための「基準」となるわけです。

もちろん、要件緩和(指導・助言を月1回から年2回以上)や経過措置(3年間)などが図られてはいます。とはいえ、歯科医師、歯科衛生士の施設へのかかわりが運営基準に組み込まれるとなれば、現場風土が大きく変わる可能性もあるでしょう。

ちなみに、同加算は2018年度改定でGHや介護付き有料ホームにも適用されました。今回の同加算の廃止は施設系だけですが、2024年度以降の改定で、上記の両サービスに波及することも考えられるでしょう。

介護現場への医療職・リハ職関与が一気に

ここで、先に述べた「施策目的」がうっすらと浮かんできます。もう一度2つの加算や区分の廃止に目を移してみましょう。

リハビリ・マネジメント加算Iの基本報酬への組み込みにより、リハビリに際しての「医師」の指示や、「リハビリ職」による居宅サービスへの留意事項の伝達が「基本」化されます。また、口腔衛生管理体制加算の基本報酬への組み込みにより、「歯科医師」や「歯科衛生士」の現場への関与も「基本」となります。

さらに今改定では、施設系での多職種連携による取り組みの中で、「管理栄養士」の役割を明確することが示されました。そのうえで、施設における各種加算の人員要件の中に、「管理栄養士」が明記される部分が増えます。

以上のように、現場の介護職員等のスキルアップや取り組み強化に向けて、医療職・リハビリ職の関与が「基本化」されることになります。そのための「報酬体系の簡素化=基本報酬算定に必要な基準化」が図られつつある──この流れに注目することが必要です。

これは、リハビリ系や施設系に限ったことでありません。今ある加算の何が基本報酬に組み込まれる可能性があるか、それによって多職種の関与が基準化されるケースが増えていくかどうか。介護従事者の働き方にもかかわるポイントとして注意したいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。