居宅介護支援改定で隠れがちな課題

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2021年度の介護報酬の改定案が示されました。多くのサービスで基本報酬が引き上げとなり、居宅介護支援も改定後の「逓減制」にかかるケースを除いて1.8%前後のアップとなっています。ただし、基本報酬をめぐる内容についてはさまざまな課題も浮かびます。

居宅介護支援事業所が2年で1000以上減少

居宅介護支援の報酬改定にふれる前に、1月13日に公表された厚労省の介護サービス施設・事業所調査をチェックしておきましょう。というのも、居宅介護支援が大きな岐路に立たされている状況が浮かぶからです。この状況を頭に入れておくことで、今回の改定案がもたらす影響が鮮明に浮かんできます。

上記の最新調査では、2019年10月1日時点での活動中の事業所・施設の数が示されています。それによれば、前年(2018年)からの減少数がもっとも大きいのが居宅介護支援です。1年での減少数は838件。次に減少数の大きい訪問介護で286件減なので、居宅介護支援の縮小の突出した様子がわかります。

ちなみに、2017年から2018年にかけての減少数は317件なので、合計すると直近2年間で1100件以上が減った計算です。全国の市町村数が約1700ですから、2年間でおおむね1.5市町村で1つの居宅介護支援事業所が稼働しなくなったと言えるでしょう。

「逓減制の緩和」と同時に提示された要件

2018年から減少が加速している背景としては、やはり実務研修受講試験の見直しによって、ケアマネを目指す人が減っている状況が頭に浮かびます。このケアマネ急減少の中では、事業所としても人材確保が難しくなり、採用・育成コストなども大きくなります。

こうした状況を頭に入れたうえで、今回の報酬改定に目を移すことが重要です。

目立つのは、一定の要件(ICT活用や事務職配置)を満たした場合の逓減制の緩和でしょう。ただし、緩和要件を満たしたケースでは、緩和された45件以上となった場合に、逆にマイナスとなります。緩和分の増収とのメリハリをつけたことになります。

いずれにしても体系が複雑になったわけですが、もう一つ注目したいのは「逓減制にかかる取扱い件数」の計算です。ここで、例外的に「件数に含めない」範囲が広がりました。

地域のケアマネ不在加速を見すえた改定か?

これまでは、「感染症や自然災害等による突発的な対応」で利用者を受入れた場合は、取扱い件数に含めていませんでした。今回は、ここに「中山間地域等の事業所の存在状況からやむをえず利用者を受入れた場合」がプラスされました。事業所が少ない地域における受入れの促進を図っているわけです。

この部分の改定は、いみじくも「ケアマネの減少→事業所の減少」への対応につながります。ここに先の施設・事業所調査の結果を照らしてみると、これから先の地域事情によっては大きな意味を持つ改定と言えそうです。

仮に、これからも(特に新型コロナの感染が拡大した2020年以降の状況など)居宅介護支援事業所の減少ペースが緩まない、あるいは加速するとします。実際、2018年からの減少が二次関数的にペースアップしている状況は、背筋が寒くなる感じさえ抱かせます。

そうなった場合、ここ数年で団塊世代が75歳以上へとなだれ込んでいく中では、「地域によって担当できるケアマネがいない」という事態も生じかねません。そこで、先の改定内容が意味を持ってくることになります。

保険者と現場に「任せる」という危機管理

たとえば、事業所が足りない地域で、保険者から「利用者の受入れ」を要請される事態も生じる可能性があるでしょう。その際に事業所側が要請を受入れるか否かは別として、保険者側としては「要請」を出しやすくなるという環境が生まれることになります。

法人側としては、「保険者の要請は断りにくい」という空気が生じる可能性もあります。といって、「仕方なく受け入れる」となれば、それが地域によって習慣化する恐れもあります。現場のケアマネとしては、予期せぬ状況下で業務負担が際限なく増えていくわけです。

こうした流れが加速すると、取扱い件数のどこに「線を引くか」という問題ではなくなります。ケアマネ一人あたりの適正な担当件数を(業務負担という観点で)国が管理するしくみも必要です。そうでないと、ケアマネのバーンアウトが爆発的に急増しかねません。

居宅介護支援の急減について、国も恐らくは強い危機感を抱いているはずです。しかし、今回の改定から浮かぶのは「保険者と現場レベルの調整に任せる」という発想です。ケアマネの処遇改善についても、特定事業所加算の要件を緩和した新区分によって「充てる」というレベルにとどまっています。

2025年を前に、居宅サービスの入口となるケアマネが「いない」という時代が到来するとなれば、介護保険スタートからの25年で最大の危機となりかねません。次の2024年度改定までに、この危機に正面から向き合えるのかが今から問われようとしています。