コロナワクチン接種をめぐる課題

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新型コロナ感染の著しい再拡大を受けて、1月8日に一都三県に再び緊急事態宣言が出されました。社会活動が大きく制限される中、注目されるのがワクチン接種についてです。気になる接種順位案等も示されました。

政府が示した接種順位案を整理すると…

接種順位案をもう一度整理すると、以下のようになります。(1)医療従事者(感染患者だけでなく「感染が疑われる人」への医療を提供する従事者含む。薬剤師や保健所職員なども)、(2)高齢者、(3)高齢者以外で基礎疾患を有する者、(4)(2)および(3)そして障害を有する人が集団で居住する施設等(居住系サービスやサ高住含む)で従事する者となっています。

それ以外の人については、(1)~(4)の接種の状況を踏まえたうえでの対応となります(妊婦の接種については、科学的知見による検討を踏まえたうえで、その後に示される)。

なお、(1)~(4)以外の人は、「自治体があらかじめ接種券を配布」→「接種希望者は医療機関に予約する」という手順がとられます。

「なぜ、(4)に居宅サービス従事者(ケアマネ含む)が含まれていないのか」といった疑問などは多々あるでしょう。その点については後ほどふれますが、それ意外にもいくつか注意しておきたいポイントがあります。

利用者への接種時期がずれ込む可能性も?

まず、最優先順位となる(1)の医療従事者等については、都道府県が調整事務を行ないます。政府は接種について「2月下旬までに」としていますが、予定通りであれば、都道府県の主導のもとに(1)の接種が開始されます。

では、(2)以降はどうなるのでしょうか。特に(2)、(3)については集団的な接種が想定されますが、そうなると会場確保などが必要です。これは市町村事務となります。この他に、市町村は「接種費用の支払い」や「接種手続き等に関する一般的な相談対応」、「住民への接種券配布」なども担わなければなりません。

また、ワクチンの種類によっては冷凍保管が必要なため、専用の冷凍庫の準備などが必要です。こうした準備や自治体の実務が増大すれば、地域によって(2)以降の接種時期が大きくずれ込むことも考えられます。報道等で「2月下旬」という時期だけが広く認知されれば、さまざま混乱も想定されるでしょう。

たとえば、ケアマネが利用者から「ワクチン接種の時期」を問われたとします。上記のような事情を考慮すれば、現状では「(政府発表にある)2月下旬から」といった情報提供は慎んだ方がいいのかもしれません。

ワクチンの安全性についての厚労省広報は?

もう一つ、利用者などから寄せられる懸念としてワクチンの有効性や安全性があげられます。一部報道によれば、海外の接種でアナフィラキシー(じん麻疹や腹痛、嘔吐、息苦しさが急激に出現する過敏反応)が認められたというケースが報告されています。政府発表で「治験期間の短縮(通常1年のところを半年程度)」も示されている中では、「本当に大丈夫なのか」という不安も高まりがちです。

このあたりは、国も情報収集を進めつつ、広く接種を行なう際には専門部会で議論するとしています。したがって、現段階で「確実な安全性」が担保されたわけではありません。

ただし、上記のアナフィラキシーについては、厚労省のHPでも以下のように広報されています。たとえば、「特定のワクチンだけに起こるものではない」、「インフルエンザワクチンの接種でも、(因果関係不明のものも含め)1シーズンで約20件のアナフィラキシーが報告されている」といった具合です。

利用者からの問い合わせ等では、こうした公式情報を伝えたうえで、過剰に不安をあおったり、逆に「絶対に安心である」などの偏った見解を伝えるのも避けたいものです。

居宅系従事者が優先されないことの施策矛盾

さて、接種順位の中の「介護従事者等」についての考え方です。居宅系サービスが優先順位から外されれば、仮に利用者が接種したとしても感染リスクは残ることになります。その一つが、「家族」と「従事者」です。

会社員等のテレワークが進む中、サービス提供中に「家族が在宅である」というケースも増えるでしょう。そうした中では、仮に「家族」が感染している場合、「従事者」は少なくとも濃厚接触者となる可能性が出てきます。特に、家族からの相談などを受ける場合も多いケアマネのリスクは高いでしょう。

「家族からの相談は、電話等で受ければいい」といった話ではありません。重要なのは、「居宅系の従事者の健康が危険にさらされる」ことに対して、(優先順位から外されるということは)国から何のメッセージも発せられないという受け止めにつながってしまうことです。

奇しくも、次の基準改定では「全サービス共通」として感染症対策の取組み強化が図られようとしています。となれば、それに見合った一律の対策を国として示さなければ、施策上の整合性をとることはできないでしょう。せめて自治体権限で、「居宅系サービスの従事者も優先順位に含める」といった対応策を打ち出していくことを求めたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。