医療職種の役割強化が与えるケアマネへの影響

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2021年度の介護報酬・基準改定に向けた審議報告ですが、全体を通じたポイントの一つとして、介護保険内でのさまざまな医療職の役割が強化されている点が浮かびます。そうした職種の取組み範囲の広がりは、間接的にケアマネ側の多職種連携のあり方にもさまざまな影響をおよぼすことになりそうです。

薬剤師、管理栄養士、歯科衛生士の役割強化

ここで述べる「医療職」とは、医師や歯科医師だけではありません。薬剤師や管理栄養士、歯科衛生士も制度上では「医療職」としてくくられることが多く、特に今回の改定でさまざまな役割強化が示されています。

たとえば、管理栄養士。大きな改定の一つは、施設系サービスにおいて「栄養ケアマネジメントを基本サービスに組み込む」ことでしょう(現行の栄養ケアマネジメント加算は廃止)。これにより、管理栄養士等と連携した栄養ケアマネジメントが実施されていない場合は減算となります(3年の経過措置あり)。

また、看取り系加算(看取り介護加算など)や褥そうマネジメント加算においては、関与する専門職として管理栄養士が明記されます。

施設系とはいえ、居宅のケアマネに関係ないことはありません。たとえば、老健では「退所後」を見すえ、「入所前後」から居宅ケアマネとの連携を要件とした加算が設けられます。施設側の栄養ケアマネジメントの強化が進むなら、利用者の入所中から管理栄養士との連携機会が増えることは間違いありません。

通所介護における管理栄養士の役割の拡大

もちろん、居宅系サービスも例外ではないでしょう。たとえば通所介護では、(1)現行の栄養スクリーニング加算に加え、「管理栄養士と介護職員等との連携」等を要件とした新加算を設けるとしています。また、(2)栄養改善加算においては、事業所の管理栄養士が必要に応じて、利用者の居宅を訪問しての栄養改善の取り組みを評価することも示されました。

ちなみに、現行の栄養スクリーニング加算では、利用者の栄養状態について確認した情報を居宅のケアマネに伝えることを要件としています。ここに(1)が加わることにより、情報のやり取りが「管理栄養士」を通じて行われる可能性が出てくるわけです。

さらに(2)で、管理栄養士が「居宅を訪問する」となった場合、(訪問を受ける利用者の意向によっては)「ケアマネのモニタリング訪問」の機会に合わせるというケースも増えてくる可能性があります。もちろん、ケアマネとしては情報連携の有効な機会となるわけですが、この機会を「どう活かすか」という点を事業所として考える必要も出てきそうです。

薬剤師や歯科衛生士がかかわる改定も

次に薬剤師ですが、過去のニュース解説で「居宅療養管理指導」についてふれたとおり、「ケアマネへの情報提供の明確化」が図られます。すでに2018年度改定で、訪問介護等から収集した「利用者の服薬等の状況」について、かかりつけの薬剤師に必要な情報提供を行なうことが明記されています。つまり、今回の改定をもって、利用者の服薬に関する双方向の情報共有が強化されるわけです。

加えて、薬剤師による居宅管理指導については、ICT等を活用したオンラインによる服薬指導の評価が設けられます(すでに診療報酬側で設けられている評価に対応したもの)。その場合、利用者側が対応できるかという課題は残る中では、ケアマネがどう介在するかという立ち位置が問われる可能性もあります。

そして、歯科衛生士。注目したいのは、通所介護においても口腔スクリーニング加算が設けられることです。これについて、栄養スクリーニング加算の要件を考えれば、やはり担当ケアマネへの情報提供が想定されます。そのうえで、すでに口腔機能向上加算を算定している事業所ならば、(外部連携を含む)歯科衛生士がかかわることも考えられます。

医療系3職種との連携を深めるために…

以上のように、薬剤師、管理栄養士、歯科衛生士といった医療系職種が、今まで以上にケアマネジメント過程に深くかかわるようになることは間違いないでしょう。ケアマネによっては、上記3職種と連携した経験があまりないという人もいるかもしれません。

逆に言えば、上記の職種のすべてが、「介護保険のケアマネとの連携に精通している」わけではないとも言えます。もちろん3職種の業務フィールドが介護保険へと拡大する中で、「対ケアマネ連携」のノウハウも以前よりは蓄積されているはずです。しかし、日常的な連携の頻度が高まる中で、ちょっとしたすれ違いが大きなストレスになりかねません。

現在、新型コロナ感染が再び拡大しています。多職種共同研修等もオフラインの参加機会が限られる中、「どうすればストレスなくつき合い方が深められるか」について、SNS等を活用した方策も意識的に築きたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。