ケアマネ実務に新たな「縛り」?

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昨年末に引き続き、2021年度の介護報酬・基準改定の審議報告にスポットを当てます。今回は、居宅療養管理指導の改定について取り上げましょう。実は、ケアマネ実務にもさまざまな影響を与えそうなポイントが見受けられます。何が変わるのかを掘り下げましょう。

近年、利用者が急増しているサービスの一つ

居宅療養管理指導については、月あたりの算定回数が限られていることもあり、介護保険上の総費用額は訪問介護や通所介護の8~10分の1程度に過ぎません。しかし、2019年度の実利用者数(予防給付を除く)を見ると約112万人で、訪問介護の約146万人、通所介護の約162万人に拮抗しつつあります。

しかも、2018年度からの実利用者数の伸びは約7万人、全サービスを通じて福祉用具の次に大きく、居宅介護支援の伸びの約6万人を上回っています。在宅利用者の重い療養ニーズの高まりなどが背景にあると思われます。いずれにしてもケアプラン上で位置づけられるケースが、今後も急速に増えていくサービスの一つであることは間違いないでしょう。

地域の多様な資源につなげることが留意点に

ご存じのとおり、医師・歯科医師が行なう居宅療養管理指導については、担当ケアマネに対してケアプラン作成に必要な情報提供を行なうことが算定要件となっています。また、薬剤師や管理栄養士、歯科衛生士が行なう場合には、やはり医師(歯科衛生士の場合は歯科医師)の指示を受けることが必要です。

さて、今回の改定では、居宅療養管理指導を行なう際の留意点として、以下のような内容が定められました。それは、「必要に応じて、居宅要介護者の『社会生活面の課題』にも目を向け、『地域社会におけるさまざまな支援』へとつながるように留意」するというものです。さらに、「関連する情報」については、ケアマネ等に提供するよう努めることを(基準上で)明記するとしています。

この「社会生活面の課題」に目を向け、「地域社会におけるさまざまな支援」につなげるとは、どういうことでしょうか。この考え方は「社会的処方」と呼ばれ、昨年閣議決定された「骨太の方針2020」でも、モデル事業などを行なう方向で示されているものです。

医療側がインフォーマル資源を提案する?

上記の「社会的処方」は、イギリスなどで推進されている取組みです。理屈はやや複雑なのですが、ポイントは「本人の多様なニーズ(医療的ニーズも含む)について、地域の多様な社会資源に結びつける」という点にあります。「多様な社会資源」という言葉にピンとくる人もいるのではないでしょうか。

介護給付費分科会の議論では、この「社会的処方」についての事例も示されています。たとえば、一人暮らしの人で、認知症によって通院や服薬・栄養管理ができなくなって健康状態が悪化したというケース。この場合、介護保険による支援もさることながら、地域の仲間つくりやそこから派生する見守り体制なども「資源」として示されています。

つまり、医療職に対しても「地域のインフォーマルな資源の活用」を視野に入れることが示唆されているわけです。医療職による多様な地域資源への関与といえば、2019年の法改正で「一般介護予防(住民主体の通いの場)等における医療職やリハビリ職の関与」が強化されました。こうした医療職と地域とのかかわりの基盤が整備される中で、介護保険でも「医療側が提案するインフォーマル資源活用」の流れが強化されたと見ていいでしょう。

特定事業所加算の新要件との関係にも注意

「これはあくまで留意事項であり、多くの医師がどこまで多様な地域資源に関心をもっているだろうか」と思われるかもしれません。しかし、この留意点に「実」を持たせるための改定も同時に行われています。

それが、ケアマネ等への情報提供に際して用いられる「新たな様式」です。この中に「利用者の社会生活面の課題にも目を向け、地域社会におけるさまざまな支援へとつながるよう、関連の記載欄を設ける」としています。

詳細はまだ示されていません。しかし、仮にインフォーマル資源などを視野に入れた「提案」などを書き込むしくみになるとすれば、ケアマネジメント上の一つの「縛り」になる可能性も出てくることになります。

関連して、ケアマネ側の特定事業所加算の新要件に「インフォーマルサービスを含む多様な主体等によるサービスが包括的に提供されるようなケアプランを作成していること」が盛り込まれました。これも上記の流れと連動するしくみであることは間違いありません。

もちろん、今回はほんの入口に過ぎないかもしれません。しかし、これを1ステップとして、3年後には「(医療主導も加わって)介護保険外資源の活用範囲」を一気に広げる改定が待っている可能性もあります。今から注意を払っておきたいポイントといえます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。