ケアマネジメント激変の第一歩!?

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2021年度の報酬・基準改定に向けた審議報告を見て気づくのは、多くのサービスで「今後の課題」の提示が目立つことです。今回の改定案をベースとしつつ、「今後の課題」から浮かぶ「3年後の改定」はどうなるのでしょうか。今回は居宅介護支援を中心に、少し長い目で見た制度の行方にスポットを当てます。

中長期的な改定の「本丸」は2024年度

「今が手一杯の状況で、3年後のことなど考えていられない」という人も多いかもしれません。それは当然でしょう。それでも頭に入れておきたいのは、今改定案は(団塊世代が全員75歳以上を迎える)2025年をにらんだうえでの「1テップ」に過ぎないことです。

つまり、中長期的な改革の「本丸」は、2024年度改定にあるということです。ここに焦点を定めるとすれば、今改定案の内容を基本として、「それがどこまで強化・拡大されるか」という見方が必要になるでしょう。

言い換えれば、「今改定案に合わせる」ための現場の体制づくりを進めるとして、3年後までにらんだ運営計画を立てておかないと、2024年度には余力が残らないことになりかねないわけです。そのうえで、体制整備に必要な補助金等の情報をどのように集め、どれを使っていくかを精査する必要もあります。

審議報告の「今後の課題」で示されたのは…

上記の点を頭に入れつつ、まずは、居宅介護支援にかかる「今後の課題」を確認しておきましょう。強調されているのは、「適切なケアマネジメント手法等を図る方策を検討する」ことです。すぐに頭に浮かぶのは、現在まで進められているケアマネジメント手法の標準化事業(以下、標準化事業)でしょう。

この標準化事業については、2018年度までの時点で、認知症を含めた疾患別のケアマネジメントのための調査・研究およびガイドラインの策定が進められています。今回の改定案には反映されませんでしたが、たとえば特定事業所加算などで「ガイドラインに沿ったケース検討を行なう」などの要件がプラスされる可能性もあるといえます。

注意したいのは、今改定案では、「ケアマネジメント手法」の定義として、「疾患別の手法に限られない」と記している点です。「疾患別」だけでないとすれば、「利用者の生活状況」や「それにともなうニーズ」にも焦点を当てた標準化が想定されていることになります。

保険外資源の組み込みを前提とした標準化?

生活ニーズなども考慮するとなれば、介護保険外の多様な支援を組み込んだうえでの「標準化」が目指される可能性があります。たとえば、認知症の人の権利擁護や障害福祉特有のサービス、生活困窮者に対する各種支援制度の紹介、さらには本人の社会参加ニーズに応えるための地域の多様な資源の発見とそこへのつなぎなども考えられます。

つまり、ケアマネの仕事は「介護保険サービスにつなげるだけではない」ことを明確にしたうえで、標準的なケアマネジメント手法として制度上で位置づける──そうした流れが強まることになりそうです。

今回の改定案で、特定事業所加算の要件に「多様な主体等が提供する生活支援のサービス(インフォーマルサービス含む)が包括的に提供されるようなケアプランを作成していること」がプラスされました。この要件がどこまで厳しく適用されるかはまだ不明です。しかし、少なくとも2024年度改定では、行政によるケアプラン点検等において重要なポイントとなってくるのは間違いないでしょう。

「行政職員のサ担会議派遣」が広がる可能性

こうした標準化に向けたケアプランやケアマネジメント過程へのチェックにおいて、地域ケア会議や実地指導だけではないしくみにも注意することが必要です。

今改定案で気になるのが、頻回の生活援助を位置づけたケアプランに対し、どのような検証方法を用いるかという点です。具体的に示されているのが、「行政職員やリハビリ専門職等をサ担会議に派遣する」という手法です。

今回は「頻回の生活援助」のケースが対象ですが、これを1つのステップとすれば、「行政職員までがサ担会議に参加する」というルールが拡大される可能性も見すえなければなりません。ここに先の介護保険外の資源まで含めた「標準化」が絡んだ場合、「行政職員が参加する」ことに別の意味も浮かんできます。

それは、市町村に義務づけられた包括的な支援体制の構築が視野に入ってくることです。つまり、ケアマネを介護保険の担い手に限定せず、包括的な支援の担い手へと広げていく動きが加速することです。当然、報酬体系も介護保険だけではなく、多様な交付金事業からの拠出となってくる可能性もあります。

ケアマネ不足の中でそんなことができるのか──と思われるかもしれません。しかし、相談援助職全体が不足する中、どこかで職務範囲を統合していく動きが出てくることは十分予想されます。年度明け後の3年の間、ケアマネの実務環境がどのように議論されていくのかに目を凝らさなければなりません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。