基準改定でケアマネへの負担は?

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介護給付費分科会で、2021年度の介護報酬・基準改定にかかる審議報告が示されました。今改定で目立つのが、全サービスに共通した「事業所・施設での取組み」にかかる新規・追加の基準です。「全サービス」には、もちろん居宅介護支援も含まれます。

感染対策から虐待防止、ハラスメント対策…

改めて、全サービスに共通する主な改定内容を整理しましょう。感染症対策等に関連した項目以外にも注目したいものがあります。

(1)感染症対策の強化に向けた取組み…委員会の開催、指針の整備、研修(以上の3点は、施設系サービスではすでに制定済み)、訓練(シミュレーション)を実施すること。

(2)感染症や自然災害が発生した場合を想定した業務継続に向けた取組み…業務継続計画(BCP)等の作成、研修・訓練(シミュレーション)を実施すること。

(3)虐待の発生・再発防止に向けた取組み…委員会の開催、指針の整備、研修の実施、また以上の取組みにかかる担当者を定めること。

(4)ハラスメント対策の強化…男女雇用機会均等法等における事業者の責務を踏まえつつ、ハラスメント対策を実施すること。

(5)認知症にかかる取組みの情報公表…認知症対応にかかる研修の受講状況などについて、介護サービス情報公表制度で公表すること。

実務負担減にもつながる緩和策の中身は?

なお、「全サービス」共通の項目として、職員の働き方への配慮や実務面での緩和策などもいくつか示されています。

前者の「働き方への配慮」では、「常勤換算」などの扱いでいくつかの見直しが示されました。たとえば、「常勤」での配置が求められる職員が育児・介護休業等を取得した場合、複数の非常勤職員を「常勤換算」としたうえで人員基準を満たすことをOKとするなどです。

また、ケアプランや重要事項説明書にかかる利用者や家族への説明・同意ですが、デジタル記録による対応を可能とし、署名・捺印についても求めない(代替手段を示す)こととしました。記録の保存等についても、デジタル対応を原則して認めるとしています。

ちなみに、運営基準や加算要件で求められている会議について、ICT(テレビ電話等)を活用しての実施も認められました。ただし、利用者の居宅を訪問して行なうサ担会議などについては、恒久的な基準としての定めは見送られています(現状では、新型コロナ感染症にかかる臨時的な取扱いのみとなる)。

どうする?委員会開催や指針整備、研修実施

さて、働き方への配慮や緩和策等に関しては、「これでケアマネの実務負担が大きく減る」となるかどうかは見解が分かれるかもしれません。むしろ、最初にあげた(1)~(5)の改定によって、新たな現場実務が要求されるという印象の方が強いのではないでしょうか。

たとえば、居宅介護支援事業所でも、感染対策や高齢者虐待防止についての委員会の開催や指針の整備、研修の実施を手がけなければなりません。このあたり、既存の事業所内会議・研修をあてることでOKとされるかどうか、解釈基準などが待たれます。

もちろん、新型コロナ感染の拡大下で支援を行なってきたケアマネにしてみれば、業務継続計画(BCP)の策定などの必要性は感じていると思います。問題は、ケアマネジメント業務ならではの特殊性や専門性が要求される場面も多いということです。

BCP作成一つでもケアマネ特有の事情あり

ケアマネの場合、他のサービス担当者と比べて利用者の生活上の多様な相談を受けるケースが多くなります。まして、新型コロナのような感染拡大や自然災害の中、将来に向けた生活上の不安が高まれば、幅広い社会資源と連携する必要性が一気に高まるでしょう。

実際、新型コロナ禍により、社協などが手がける生活困窮者支援では相談者が昨年比で1.5倍以上に増えています(4~9月までの数字なので、年末までには3倍近くまで膨らむ可能性もある)。すでに相談現場は深刻な人手不足に陥っていると報告されています。

専門の他機関がこうした状況ですから、多様な相談ニーズがケアマネに向けられるケースも、さらに増えるのは間違いありません。そうした状況を見すえれば、平時以上に「(介護以外の)多様な専門機関との円滑な連携」を進めるための準備を整えることも必要です。

しかしながら、国のBCPガイドラインでも、ケアマネジメントが影響を受けやすい「(感染拡大等によって生じる)二次的な変動要素」はほとんど考慮されていません。感染拡大下で限られてしまう人員体制を考慮しつつ、「業務の優先順位を整理する」としていますが、ニーズ環境の変動が生じれば、「何をどこまで優先するか」に戸惑いが生じがちです。

こうしたケアマネ特有の事情を考慮すれば、それをBCP等に盛り込みつつ、公的な体制や別途予算措置を組むことも求められます。今回の基準の施行前に、職能団体としても国と交渉すべきポイントといえます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。