介護現場立て直しに必要な改定率

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2021年度の介護報酬・基準改定に向け、介護給付費分科会が、審議の取りまとめを迎えています。一方で、現場にとって気になるのは、年明けに示される介護報酬の改定率でしょう。これがどうなるのかを大胆に予測します。

注目したいのは、通所系サービスの対応案

まず注目したいのは、12月9日の分科会で示された通所系サービスの(新型コロナの感染拡大を受けた)報酬上の対応です。

本ニュースでも取り上げたとおり、新型コロナによる利用者減を見込んだうえで、(1)より高い基本報酬区分の算定(大規模型)や、(2)利用者1人あたりの経費増加への対応評価(通常規模や地域密着型通所介護など)が示されています。これらの対応を2021年度当初から行なうとともに、通所系サービスにかかる報酬上の特例(2区分上位の算定など)の適用は行われなくなります。

ここで特にチェックしたいのは、(2)です。要件としては、今年に入ってからの延べ利用者数が、前年度の平均延べ利用者数と比較して一定以上減少していることが必要です。なお、(2)の評価分については、区分支給限度基準額の算定には含めないとしています。

これを基本報酬上の新区分とするのか、加算で対応するのか。また、どれくらいの上乗せとなるのかなどについては、年明けに向けて詳細が示されることになります。

財務省が望む、公費より介護報酬での対応

やや深読みですが、この(2)の考え方が、新型コロナ禍の他サービスへの評価にも準用される可能性があります。感染拡大によって利用控えなどが生じやすい短期入所はもちろん、訪問系や施設系も例外ではありません。

訪問系、施設系などでは、感染拡大にともなう物件費の増加が見られます。こうしたかかり増し経費については、補正予算によるサービス継続支援事業や緊急包括支援交付金でまかなわれてきました。ただし、財務省提言では、交付金よりも介護報酬の方が迅速性や継続性などに優れるとしています。

つまり、公費より介護報酬による対応を求めているわけです。介護報酬であれば、「被保険者の保険料負担が増大」を論点にできることで、財務省として「拠出を調整しやすい」というメリットを見込んでいるからでしょう。

新型コロナ対応評価は、+0.3~0.5%程度?

もちろん、第三次補正予算では緊急包括支援交付金の増額が示されているわけですから、「かかり増し経費」分がすぐに介護報酬に付け替えられることはないかもしれません。

ただし、上記の交付金などがいつまで続くか、あるいは交付金の対象範囲がどうなるかは見通せません。となれば、「介護報酬でまかなう」ためのしくみを整え、一定のプラス改定を財務省側に譲歩させることが必要になります。その方法として、先の通所系サービスの(2)がベースとなる可能性があるわけです。

具体的に言うなら、以下のような状況が想定されます。たとえば、利用者等に感染者や濃厚接触者が出るなどのケースで、利用者1人あたりの経費が増したとします。この時点から、報酬上での評価の上乗せを行なう──こうしたしくみも考えられるでしょう。

問題は、こうした上乗せ分による改定率がどうなるかです。財務省は、(1)人件費には影響なし、(2)経費の増加分は物品費であるとして、費用増加を+0.3%としています。

これは、あくまで今年の1~3月と4~6月を比較した数字です。秋以降の感染の再拡大は見込まれていません。しかし、この+0.3%が政府内で一人歩きすれば、上乗せを見積もっても+0.5%程度にとどまりそうです。

予測される改定率、ベースは+2%だが…

さて、ここに自立支援・重度化防止や地域包括ケアシステムの推進(重度者・認知症対応)分の加算などを上乗せするとします。

たとえば、2015年度改定において全体は大幅なマイナス改定でしたが、重度者・認知症対応の加算等は+0.56%でした。今回は、さらに(1)重度化防止に向けてのCHASEへのデータ対応、(2)ICT活用による現場革新などが加わります。いずれも+0.5%程度と仮定すれば、合計で約+1.5%となります。

ここに、先の新型コロナによる費用増加分を加えれば、トータルで約+2%。この数字が、現時点でベースとなる改定率としましょう。「ベースとなる」というのは、ここには現場従事者の負担増への評価や、事業所の経営難への対応などが含まれていないからです。

現在の介護現場の厳しさは、2015年度のマイナス改定が一つの原点といえます。同年度の改定率は▲2.27%ですが、これを「ゼロに戻す」とすれば、先の+2%と合わせ+4%強となります。非現実的と言われそうですが、裏を返せば、現場がそこまで追い込まれていることを示す数字と言えるでしょう。

「被保険者の保険料が大変なことになる」というなら、たとえば改定率を(先にベースとした)+2%にとどめ、残りの+2%強を公費で補填するというやり方もあるでしょう。いみじくも新型コロナで露わになった介護保険の揺らぎを立て直すには、それくらいの思い切った施策が必要ではないでしょうか。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。