支援交付金の増額、3ヶ月遅い!?

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政府が、今年4月以来となる総合経済対策を閣議決定しました。2020年度第3次補正予算の策定に向けた骨子ですが、同時期に編成される来年度の本予算にも影響を与えるものです。介護分野でもいくつかの方針が示されましたが、新型コロナ感染の再拡大で厳しさを増す介護現場に届くものとなるのでしょうか。

政府の経済対策で示された介護分野対策は?

まず、介護分野で示された方針を確認しましょう。主なものは以下の2つです。

(1)新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金の増額です。医療だけでなく、介護、障がい福祉も対象となります。ただし、物品支援等(個室化改修等の支援を含む)となっているため、従事者のための「慰労金」の増額が含まれるかどうかは定かではありません。

仮に「慰労金」まで含まれる場合でも、最大20万円となっている慰労金の増額となるのか、もしくは6月30日までとなっている対象期限の引き伸ばしという形で「増額」とするのかどうか。このあたりについても、具体的な予算編成を待たなければなりません。

(2)雇用と福祉の連携による離職者への介護分野への就職支援です。具体的には、職業訓練、職場体験と訓練修了後の就職支援金貸付(返済免除条件付き)を組み合わせたものです。

就職支援金の貸付については、2021年度予算の概算要求でも示されています。ここに職業訓練等の肉付けがなされたことで、厚労省関連予算の中でも集中的な予算投入が図られる可能性が高いと言えます。

2021年度の介護報酬改定には言及されず

気になるのは、2021年度の介護報酬のプラス改定や従事者の処遇改善に直接ふれた項目がないことです。あくまで「経済対策」ではありますが、世帯内の介護ニーズが家計や雇用に大きな影響を与えている点を考えれば、地域の介護資源が揺らがないようにすることも大きな経済対策の一環であるはずです。

また、新型コロナによる重症者増による病床ひっ迫についても、介護基盤の状況と大きく関連している点は無視できないでしょう。重症化しやすい要介護高齢者の日々の体調管理について、介護現場が担う役割は小さくありません。つまり、介護サービス提供が困難な状況も、病床ひっ迫の潜在的な要因になっているという危機感が求められるわけです。

今回の経済対策では、「万全の医療体制を確保する」こともテーマに掲げています。その点を考えれば、少なくとも「プラス改定」を明言するとともに、「その上げ幅」の見通しまで示すことが求められたのではないでしょうか。それがあれば、事業者も次年度の経営見通しを得やすくなり、急増中の「撤退・廃業」を少しでも防ぐことにつながったはずです。

今、必要なのは報酬アップまでの「つなぎ」

介護現場が、新型コロナをはじめ季節性インフルエンザなどの複合的な感染対策に追われるのは、十分予測できました。だからこそ秋の時点で第3次補正予算を組み、(1)の緊急包括支援交付金(特に慰労金)の増額および適用期限の拡大を図りつつ、2021年4月の報酬アップまでの「つなぎ」とする──こうした戦略的な道筋があってしかるべきだったのではないでしょうか。実際、当ニュース解説でも何度か指摘してきたことです。

もちろん、(1)のような施策が出てきたこと自体は評価できます。しかし、タイミングが3ヶ月遅れたことで、倒産・撤退・廃業だけでなく、水面下で(定員減などの)サービスの縮小が進む状況が露わになってきました。

3ヶ月(四半期)というのは、企業にとって経営計画の節目となるわけで、この間に手を打てなかったことは、大きいと言わざるをえないでしょう。この状況を立て直すには、さらなる予算投入も必要となりかねません。

感染対策の基準改定に立ちふさがる現実

こうした中、介護給付費分科会では、基準改定案が示されました。全サービス共通項目として、感染症対策などにかかる委員会の開催や指針の整備、研修の実施、シミュレーションの実施などが居宅サービス(居宅介護支援も含む)にも適用するという内容です。

3年間の経過措置は設けられていますが、事業所にとっての負担は小さくありません。なぜなら、上記を実施するとなれば、従事者1人あたりの時間外労働を増やさざるを得ないケースも多いからです。そのための時間外手当の増額、シフトの調整、現場のオペレーションの改革など、事業者にとっては新たなマネジメント上の負担が増すことになります。

確かに、新型コロナの感染拡大下で「必要なこと」という認識は、業界全体で共有はされているでしょう。しかし、「国がどのようなバックアップをするか」が同時に見えなければ、現実問題として「やりたくてもできない」となる事業所も急増しかねません。国側の支えが一歩でも遅れれば、それだけ利用者の重度化も加速し、介護保険財政、そして病床のダブルひっ迫を進めることにもなります。新型コロナ感染が急拡大する中、タイミングの問題は非常に大きいという認識が必要です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。