ケアマネの新説明義務、何のため?

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12月2日の介護給付費分科会で、介護サービスにかかる基準改定案が示されました。居宅介護支援では、以下の2つ。(1)公正中立の確保の観点から、利用者への新たな説明義務が設けられること。(2)頻回の生活援助にかかるプラン点検・検証のしくみを導入することです。今回は(1)の改定案を掘り下げます。

提案された新たな「利用者への説明義務」

現場のケアマネにとっては、やや唐突とも言える改定案だったのではないでしょうか。改めて「利用者への説明義務」として位置づけられた内容を確認しましょう。

(1)前6か月に作成したケアプランにおける、以下のサービスのそれぞれの割合。対象サービスは、訪問介護、通所介護、地域密着型通所介護、福祉用具貸与(販売)。

(2)前6か月に作成したケアプランにおいて、上記のサービスごとに同一事業者によって提供されたものの割合──となります。

言うまでもなく、上記の対象サービスは、福祉用具販売を除いて特定事業所集中減算(以下、集中減算)の対象となっているものです。つまり、各サービスの「集中」の度合いを利用者にも「見える」化することで、利用者目線でのチェック環境を整えたわけです。

発端は2016年に出された会計検査院報告

なぜ、こうした改定案が出てきたのでしょうか。発端となったのは、2016年3月に会計検査院が出した報告書(介護保険制度の実施状況に関する会計検査の結果についての報告書)です。ここに、「特定事業所集中減算とケアマネジメントの公正中立の確保」をテーマとした内容が示されています。

この中で、「特定事業所集中減算」は、「(ケアマネジメントの公正中立の確保という目的に対し)必ずしも合理的で有効な施策とは考えられず、むしろ一部の支援事業所においては、集中割合の調整を行なうなどの弊害を生じさせる要因となっている」と報告されました。これを受けて、2018年度改定で特定事業所集中減算の対象サービスが絞られたという経緯は、記憶に新しいと思います。

ただし、会計検査院は「特定事業所集中減算」そのものの有効性を問題にしたわけですから、2018年度改定の内容では、「公正中立の確保」への本質的な回答とは言えません。

間接的には国会から厚労省への「きつい指摘」

注目したいのは、先の会計検査院の報告では、以下のような記述も見られることです。やや長いですが引用してみましょう。

「(集中減算の適用を受けないように)集中割合の調整が行われる場合には、ケアマネジャーは必ずしも利用者の心身の状況、希望等を勘案して居宅サービス計画を作成していないことになり、このようなケアマネジメントは、『ケアマネジャーはその担当する利用者の人格を尊重し、常に当該利用者の立場に立って業務を行なわなければならない』としている運営基準等の趣旨に反すると考えられる」

ここで指摘されている「利用者の希望等の勘案」というのは、いわば利用者の選択権の尊重と言えます。集中減算がそれを阻害するのであれば、これを定めた省令そのものが、運営基準に反しているというわけです。

これは、厚労省にとってかなりきつい指摘でしょう。そもそも、この時の会計検査院の報告というのは、国会(参議院)の決算委員会が求めた調査です(国会が求めた場合、国会法第105条の規定により、会計検査院は調査・報告をしなければなりません)。

つまり、間接的には、国会という「国権の最高機関(日本国憲法条文より)」から省令内の矛盾を指摘されたことになります。厚労省としては、何としても「応えなければならない課題」を背負い続けたままといえます。

検査院報告に応えるための体裁を整えた?

厚労省としては、何とか省令内の矛盾を解消したい。そのためには、利用者の選択権をサポートするしくみ(情報公開・提供)を「形だけでも」整えなければならない──その結果として出てきたのが今回の改定案、という見方が浮かんできます。なぜ「形だけ」なのかといえば、この改定案を見る限り、「利用者の選択権」を本質的にサポートするとはどうしても思えないからです。

そもそも、利用者が今回ケアマネに義務づけられる「新たな説明」を受けたとして、それで利用者の選択権が保障されるでしょうか。本当に選択権を保障するのなら、併設事業所の意向に縛られない環境を作るために、独立型事業所の報酬を引き上げるといった手法の方がよほど理に叶っていると言えます。

今回の改定案に限らず、複雑化した加算体系などを見ても、「利用者の自立促進・尊厳の確保」よりも「一省庁としての体裁の確保」が先に立っている節はないでしょうか。この根っこを正さない限り、現場の従事者も利用者も、「何のために?」というもやもや感はますます強まることになりかねません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。