特定事業所加算の新要件に潜むもの

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居宅介護支援事業所にかかる2021年度の報酬改定案から、特定事業所加算の見直しを取り上げます。ポイントは3つ。(1)要件を緩和した新区分を設けること、(2)IVの名称変更、(3)新区分を含めて新たな要件を設けることです。このうち(3)にスポットを当てましょう。今年の法改正も絡めつつ、課題を探ります。

昨年の介護保険部会の見直し意見を反映

(3)の要件について、現行案で示された内容を確認します。それは、「必要に応じて、多様な主体等が提供する生活支援のサービス(インフォーマルサービス含む)が包括的に提供されるような居宅サービス計画(ケアプラン)を作成していること」というものです。

この要件を、冒頭の新区分(1)を含めて、特定事業所加算の全区分に適用するとしています。現行のIVは、名称変更(医療介護連携体制加算【仮称】)とともに特定事業所加算の区分からは外れますが、「(現行の)I~IIIの算定」が要件となっている点で、実質的にはIVにも新要件の適用が図られることになります。

新要件を満たすには、具体的にどのようなプランが必要なのか。また、要件に適合しているか否かを、どのように判断するのか──こうした詳細な部分については未定です。

ただし、この新要件については、昨年の介護保険部会における「制度の見直し意見」で提案されていたものです。これを一律の基準として適用するのではなく、まずは特定事業所加算の要件からスタートさせたといえます。

実質的には「一律の基準化」が視野に!?

注意しなければならないのは、特に収支差率が低い居宅介護支援事業に対し、厚労省としては「特定事業所加算の算定を促進することで収支差率を上げる」という方向に力を入れている点です。特定事業所加算の算定の有無別で「経営状況」を示すデータを示していることを見ても明らかです。

だからこそ、要件を緩和した新区分を設けて、加算算定のすそ野を広げるという案を提示したといえるでしょう。一方で、「基本報酬はどうなるのか」が気になるところです。特定事業所加算の上乗せと逓減制の一部緩和が図られるとすれば、仮にアップさせるにしても、限られたものになる可能性があります。

だからこそ、特定事業所加算は、そのすそ野も拡大したといえます。結果として、冒頭(3)の要件も「広く適用する」という環境が整ったわけで、実質的には、「一律の基準化」へとアクセルを踏み込んだと見ていいでしょう。

総合事業対象を拡大した省令改正との関連

そのうえで、もう2つほど注意したいことがあります。1つは、ケアプランに組み込む対象として、「多様な主体等が提供する生活支援のサービス」としている点です。恐らく、総合事業をはじめとする地域支援事業にかかるサービスを想像するのではないでしょうか。

たとえば、総合事業における買い物等の家事支援について、訪問介護の生活援助の代わりにプランに位置づける流れをつくることが想定されます。先の省令改正で、総合事業の訪問・通所型の第1号事業の対象に「原則として要介護者も含める」ことが可能となりました。この総合事業の対象者を拡大するという流れとも、連動しているといえます。

もう1つは、「包括的に提供されるような」という内容が含まれている点です。「包括的に」という文言から、今年の社会福祉法(第6条)等の改正における「地域課題の解決が『包括的』に提供される体制の整備」を連想した人も多いのではないでしょうか。

仮に基本報酬増でも責務拡大との関係に注意

たとえば、利用者世帯における多様なニーズ(家族の障がい福祉ニーズ、世帯の生活困窮ニーズなど)に対して、「包括的に対応すること」を市町村に求めています。そのための施策上の費用の按分課題などを解決するために、重層的支援体制整備事業なども設けられました。問題は、こうした事業における包括的な支援の入口を誰が担うのかという点です。

入口となるニーズが要介護者への支援となる場合、市町村(つまり保険者)がケアマネに「複合化したニーズを多機関につなぐ役割」を位置づけることも想定されるでしょう。となれば、介護保険のしくみにおいて「ケアマネ側の協力を得やすくする」という環境を整えておく必要があります。それが、今回の要件緩和に当たるのではないか──そう考えると、これまでの改革に横軸が通るわけです。

仮に重層的支援体制整備事業などにケアマネが協力するとなれば、同事業で新設された交付金から必要な費用がねん出されることも考えられます。とはいえ、現場のケアマネにしてみれば、(介護保険外での処遇上のインセンティブが設けられたとしても)どこまでが業務上の責務なのかが分かりにくくなる懸念も生じることになるでしょう。いずれにしても、「基本報酬がどこまで引き上げられるのか」に関連して、「将来的にどこまで実務が広がるのか」を見据えることが必要になりそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。