ケアマネも注意、入浴介助加算

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通所介護(地域密着型・認知症対応型含む)の報酬改定で、入浴介助加算に新たな区分を設ける案が示されています。在宅での入浴環境をふまえ、個別入浴計画の作成の策定などを要件とするものです。この新区分は、施策上どのような狙いがあるのでしょうか。

提案された新・入浴介助加算の要件とは?

ピンポイントのテーマですが、その背景に目を配ると、新加算の具体的な要件やその後の展開が気になります。というのは、生活機能向上連携加算やADL維持等加算などと同様に、たびたび述べている「小さく生んで大きく育てる」という施策の流れがここでも垣間見えるからです。展開次第では、ケアマネ実務にも影響を与える可能性があります。

まずは、提示されている新加算案の要件等を改めて整理してみましょう。

(1)医師、PT、OTが利用者宅を訪問し、そのお宅での浴室の環境を確認します。この場合の医師、PT、OTは、訪問・通所リハビリ事業所との連携によって確保してもOKです。つまり、生活向上連携加算における実務とのかかわりが強くなる点に注意が必要です。

(2)(1)で把握された利用者宅の浴室環境や、利用者の身体状況をふまえ、個別入浴計画を作成します。目標となるのは、家の浴室での入浴を可能とすることであり、この目標を見すえつつ、通所での入浴介助を行ないます。

ケアマネにはどのような影響が生じるか

さて、ケアマネをはじめ、その他の職種にかかわってくるのが、以下の(3)です。

(3)(1)の訪問での把握を通じ、利用者宅の浴室が、利用者自身または家族の介助により入浴を行なうことが「難しい」とします。その場合、訪問した医師、PT、OTがケアマネや福祉用具専門相談員と連携し、福祉用具の購入や住宅改修などの助言を行なうとしています。

(3)にかかる実務をケアマネ側から見るとどうなるでしょうか。ケアプラン作成に際して利用者の「家での入浴の自立」を目標とした場合、利用者・家族の意向をくんだうえで、通所介護事業所に新・入浴介助加算の算定に向けたサービス提供を求めることになります。

この段階で、ケアマネとして「家の浴室の環境整備が必要かどうか」を見立てることになるでしょう。問題は、ケアマネ側の見立てと、その後の医師、PT、OTの見立てが異なり、ケアプラン作成後に福祉用具の購入や住宅改修が必要という助言を受けたケースです。あくまで「助言」ですが、場合によっては、ケアプランを見直したり、住宅改修の手配などをしなければならないかもしれません。

ケアマネ等への配慮がないと低算定は必至

このように、通所事業所側の新・入浴介助加算の算定に向けては、「多職種連携」の名目のもとで、それなりの試行錯誤が生じる可能性もあります。つまり、「利用者の(家の風呂で入浴をしたいという)意向を叶えたい」という意欲が強いケアマネほど、実務負担が増えかねないわけです。福祉用具の購入や住宅改修がセットになってくれば、利用者側の負担増が前提となる点も課題でしょう。

加えて、医師やPT、OTとの連携を要するとなった場合、算定できる事業所はPT、OTを採用しているか、生活機能向上連携加算を算定しているケースに限定されやすいはずです。以上の点から、新加算の算定に向けたチーム全体の取組みには、現実問題としてさまざまな壁が存在することになります。

少なくとも、この新加算をめぐっては、ケアマネ側にも何らかの報酬上のインセンティブが必要となりそうです。それがないと、新加算は設けたものの、結局は算定率が極めて低くなる状況は避けられないでしょう。

今回の考え方は、他の加算にも波及する!?

それでも、この新加算が提案されたのは、背景に個別機能訓練加算をめぐる課題があると考えられます。この個別機能訓練加算には、家で「できること」の向上などを目指す生活機能向上の考え方(通所介護の個別機能訓練加算IIなど)が導入されています。

ところが、この生活機能向上に向けた訓練(入浴や排せつ、食事、家事等の一連の行為練習)の実施率が低いという調査結果が出ています。生活機能向上の考え方は、2012年度改定で国が打ち出したものですが、現場の実情との開きが依然あるわけです。

この状況を何とかするために、個別の生活行為にかかる介助の中に、生活機能向上の考え方を入れ込む──こうした思惑が浮かんできます。となれば、ゆくゆくのターゲットは入浴介助にとどまるものではないかもしれません。たとえば、栄養ケア関連の加算に、「管理栄養士等と連携した、栄養状態の改善に向けた家での食事環境の整備」を視野に入れたしくみが誕生するなども考えられます。

いずれにしても、今回の新・入浴介助加算を皮切りに、多くのサービスで医療職・リハ職との連携が前提となるしくみが誕生するかもしれません。ケアマネとしても、ケアマネジメントがサービス提供側の個別加算に左右されるという流れに注意する必要があります。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。