CHASEでBPSD対応向上できる?

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11月26日の介護給付費分科会で、「認知症対応力の向上」を目的とした報酬上の改革案が示されました。今回取り上げるのは、行動・心理症状(BPSD)への対応力の向上です。いくつかの指標によるCHASEへの入力・フィードバックの推進が目指されています。

2021年度からのBPSD対応評価案を整理

分科会で提示された案を整理すると、以下のようになります。

(1)一定の指標をもって利用者のBPSD評価を行ない、その結果をCHASEに入力することで、対応状況の可視化を図ること。

(2)(1)における指標は、DBD-13およびVitality Indexを活用すること。また、任意でNPI-NHを評価尺度とすることも想定しています。

(3)CHASEへの入力後は、フィードバックを受けてサービスの改善に努めていくこと。

(4)(1)~(3)の取組みを推進するしくみを整えること。対象サービスは施設サービス、GH、小規模多機能型を想定する──という具合です。

この(1)~(4)を推し進めるとして、報酬上ではどのようなインセンティブが定められるのでしょうか。これについては、「科学的介護の推進」で評価イメージが示されています。

それによれば、「関連する加算評価の有無にかかわらず、あらゆる事業所を評価の対象とする」ことが想定されています。たとえば、「CHASE入力・活用を要件とした共通加算を設ける」、あるいは「基本報酬に組み込みつつ、新区分を設ける」などが考えられます。

BPSD評価に向けた3つの指標とは?

いずれにしても、前提として(2)の指標の理解が必要です。ここで示された3つの指標をまずチェックしておきましょう。

まず「DBD-13」ですが、これはその名のとおり13項目からなる評価尺度です。もともとは、認知症の行動障害を測定するツールとして1990年に28項目(DBD-28)からスタートしました。この短縮版となるのが「DBD-13」です。「同じことを何度も聞く」、「明らかな理由なしに物をため込む」など13項目の行為について、「まったくない」から「常にある」までを0~4点で評価します。

2つめの「Vitality Index」は「意欲の指標」と言われるもので、起床、意思疎通、食事、排せつ、リハビリ・活動の5項目について評価したものです。それぞれに、「関心・反応がない等」、「介入によって反応がある等」、「自分から進んでする等」で0~2点で評価します。主に、認知症の身体的ケアの効果を測定する際に使われる指標といえます。

3つめの「NPI」は、表に出ている行動障害を評価するというより、その背景となった利用者の精神状態などに着目した指標です。妄想、幻覚、興奮、不安など12の症状ごとに、本人の主観に寄り添った細かい質問項目が設定されています。BPSDの背景に迫るという点で、「日常のケアで意識すべきポイント」を探りやすいメリットはありますが、評価者の負担も大きくなる可能性があります。

利用者のBPSDを左右する現場の「現実」

こうした指標による評価を行なうとして、課題はその実務が現場に与える影響でしょう。

確かにNPIなどは、その評価指標を意識すること自体が、現場職員の認知症ケアスキルを高める効果は期待できます。また、入力作業については、日々のケア記録とCHASE入力のシステムを連動させるしくみができれば、多重の手間などは避けることができます。

ただし、CHASEの目的である「利用者の状態とケアの内容」を分析するなら、特に認知症のBPSD対応については注意しなければならないことがあります。それは、現場の負担を高めているBPSDが、認知症の本人と周囲との関係性にも大きく影響している点です。

たとえば、BPSDが十分改善されないまま施設等に入所した人がいるとして、その言動がすでにケアを受けている認知症の人の心理状況に強い影響を与えることがあります。

また、現場の人材不足で職員一人あたりの労働負担が高まれば、職員のメンタル面の悪化が懸念されます。どんなに経験豊かな職員でも人間ですから、心身の疲労が蓄積されれば、無意識のうちに利用者への言動がきつくことがあります。それによって、利用者のBPSDが悪化するとすれば、職員が直面する状況も正しく評価されなければなりません。

「CHASE稼働ありき」になっていないか?

こうした「バイアスがない」ことを前提とするなら、CHASEからのフィードバックを受けてのケアの改善も期待はできるでしょう。しかし、認知症の人が利用者となる前の医療の状況(それによってBPSDが悪化しているケース)や、職員への処遇改善や負担軽減が図れない「現実」があれば、フィードバックの効果は十分発揮されない可能性も残ります。

また、その状況でデータ入力を図っても、先の「バイアス」との関連が測定できなければ、DBそのものが意味をなさなくなります。結果として、「CHASEの稼働ありき」という本末転倒の状況を生み出しかねません。しかも、新型コロナの感染拡大で、先の「バイアス」発生の懸念はますます高まっています。

BPSD対応のためのデータ活用を否定するわけではありません。しかし、その土壌が揺らいでいる中では、次の改定から報酬上の評価に結びつけるのはやはり時期尚早と思われてなりません。先の「バイアス」状況をきちんと把握しつつ、それを測定できる指標開発などを進めることが先決ではないでしょうか。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。