「大きく育たない」加算の問題点

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国が力を入れているのにもかかわらず、算定率がなかなか伸びないという加算がいくつか見られます。2018年度改定で、適用サービスの拡大が図られた生活機能向上連携加算もその一つ。介護給付費分科会では、「制度的・構造的に問題あり」とする意見も上がっています。課題はどこにあるのか掘り下げます。

2018年度改定で一気に拡大された加算だが

生活機能向上連携加算の算定率は、通所介護で1.08%(個別機能訓練加算に上乗せされるケースでも3.40%)、訪問介護に至ってはI・IIともに0.5%にも満たない数字です。

同加算は、2012年度改定での訪問介護への適用から始まりました。その後、2015年度に連携対象を通所リハにも拡大、2018年度に適用サービスを10にまで広げるなど、「小さく生んで大きく育てる」という施策の流れをたどってきました。国としては「大きく育てたい」にもかかわらず、上記のような算定率にとどまっているというのは、制度設計上に大きな問題があることは明らかでしょう。

ここで、通所介護にかかる生活機能向上連携加算の改定案を改めて確認しましょう。厚労省が示した方向性は2つあります。

1つは、ICT等の活用により、連携するリハビリ専門職が「事業所を訪問せず」に利用者の状態を把握して助言した場合でも算定をOKとすること。すでに訪問介護では、この対応がとられています。しかし、訪問介護の算定率はさらに低いわけで、この改定が算定率を抜本的に改善するかといえば、大きな効果は期待できないかもしれません。

「謝金調整がつかない」は意外に大きな問題

もう1つは、都道府県や保険者が連携先となるリハビリ事業所等の情報を、加算算定を目指す事業所に提供するというしくみです。これは「算定していない理由」の中に、連携先の事業所・施設の存在や連携に際しての「やりとり等がよく分からない」というケースがあることに着目したものです。

具体的に提供される情報の案としては、(1)事業所名や連絡先、担当者名などの基本情報に加え、(2)連携可能職種・人数、謝金など連携実務にかかる情報も含まれます。

この情報の中で注目したいのが「謝礼金(謝金)」です。連携に際しては先方の事業所との契約になり、算定事業所側が料金を払うしくみになっているわけですが、その「謝金」がいくらになるのか(また、明細はどうなっているのか)などの情報が想定されます。

「算定していない理由」の中で、「謝金の金額の調整がつかなかった」というケースは2.8%とわずかです。しかし、連携先と調整する前から「謝金の調整」が算定意向の壁になっている可能性を考えれば、実際はもっと影響しているのではとも考えられます。

制度上のインセンティブがないことがネック

こうした「謝金」など事業者間の金銭のやりとりをめぐっては、たとえば、GHの医療連携体制加算にかかる「訪問看護ステーションからの看護師の受け入れ」といったケースもあります。この場合も委託契約料という金銭のやり取りが発生するわけですが、その折り合いがつかないことで、連携が実現しなかった例も一定以上あることがわかっています(訪問看護事業協会の2014年度報告より)。

いずれにしても、専門職を派遣する事業所側に給付による報酬が「発生しない」(制度上のインセンティブがない)という点が、連携に影を落としていることは間違いないでしょう。分科会での事業者団体ヒアリングでも、「派遣した側に報酬設定がなされていないために依頼しにくい(全国リハビリ医療関連団体協議会)」といった意見が上がっています。

新型コロナの再拡大で状況はさらに厳しく

一方、厚労省は地域リハビリ活動支援事業の活用などを想定しているようです。見直し案では、「都道府県や保険者による連携事業所にかかる情報提供」をかかげていますが、さらに一歩踏み込むことになります。地域において、リハビリ専門職を安定的に派遣できる体制を構築するわけです。この場合の経費は、地域支援事業交付金からねん出されます。

問題は、こうした体制確保には、地域の医師会などの協力が必要なことです。言うまでもなく、現状の地域医療にかかる最優先課題といえば、新型コロナ感染にかかる医療体制の整備です。そうした中で、介護事業所との連携に向けたリハビリ職等の確保にどこまで力を入れる余裕があるのかといえば、やはり厳しいと言わざるを得ないでしょう。

まして、事業所間で謝金をやり取りするとなれば、新型コロナ禍で(派遣する人材の余裕がないなどにより)金額の折り合いをつけることは、ますます難しくなりかねません。算定率はさらに低下する懸念もあるわけです。

やはり、診療報酬も含めて連携事業所双方に適切なインセンティブが働くしくみを構築することが先決でしょう。新型コロナ感染の再拡大の状況下であるからこそ、制度設計も再度見直す時期に入っているはずです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。