介護保険20年で訪れた最大の危機

2020年1-9月期の「老人福祉・介護事業」の倒産件数が、同期としては2000年の介護保険スタート以降で最多となりました(東京商工リサーチ調べ)。事業所・施設の休廃業・解散も過去最多ペースとなる中、業界はどうなっていくのでしょうか。制度そのものの持続性も含めて見すえてみましょう。

休廃業・倒産数の増加もさることながら…

東京商工リサーチの推計では、2020年の年間倒産数は120件、休廃業・解散を含めると600件におよぶとされます。もっとも全国の介護事業所・施設数は約22万ですから、後者の数字でも0.3%に達していません。問題は、この600という数字は氷山の一角であり、水面下には多くの予備軍が存在することです。

たとえば、資金繰りに窮すれば、人材確保に向けた経費のねん出もままなりません。そうなれば、人員基準を満たすために定員を削減し、結果として地域のサービス資源は縮小します。倒産や廃業、撤退だけがサービス資源の減少要因ではないわけです。

サービス資源の減少が地域の「危機」だとするならば、それは地域にとって「事故」にも相当します。事故といえばハインリッヒの法則が適用できます。ハインリッヒの法則とは、1件の「重大事故」が生じた場合に、その水面下には29件の「軽微な事故」と300件の「異常な状態」が生じていることを経験則から法則化したものです。

全国8割の事業所・施設が「異常な状態」に

仮に「軽微な事故」を(1)「すでに定員減などが生じている状態」、「異常な事態」を(2)「定員減には至っていないが、運営コストの削減などによって現場のオペレーション等に負担がかかっている状態」としましょう。

先の倒産+休廃業・解散の推計である600件を「重大事故」とした場合、(1)は600×29=1万7400件、(2)は600×300=18万件にのぼります。全国市町村数は約1740ですから、(1)をもとに単純計算すると1つの市町村区あたり10件の事業所・施設が定員減に陥っていることになります。

また、先に述べたとおり、全国の介護事業所・施設数は約22万です。これを(2)の結果と照らし合わせると8割の事業所・施設が「まっとうなオペレーションを展開できていない」という状況になっているわけです。

こうして見ると、冒頭の600件というのは、かなり衝撃的な数字ということになります。オペレーションが正常でなければ、自立支援・重度化防止を目的とした加算などを取得する実務も追いつきません。

加算取得のオペレーションも追いつかない!?

現在、開催されている介護給付費分科会で、地域密着型や通常規模型の通所介護における個別機能訓練加算の取得が(取得率の高いIIの方でも)2割台にとどまっていることが問題視されています。逆に言えば算定できていない事業所は約7割にのぼるわけです。

この7割という数字、上記の「まっとうなオペレーションを展開できていない」という8割とほぼ符合していることが分かります。

となれば、自立支援・重度化防止という、国がかかげる介護保険のミッションが実現できていないことの背景は明らかです。加算を取ろうにも、それを叶えるための現場のオペレーションにかけるコストが十分ではない──ここに問題の核心があるといえます。

これを解決するための方法は2つ、(1)基本報酬を大幅に引き上げて財務体質を強化すること、(2)経営体質の抜本的な改善を国や保険者の指導のもと推進すること──となります。

制度の持続に向け、今集中するべき施策は?

もちろん、両方の方策は同時並行で進めることが必要です。しかし、介護保険財政のひっ迫や保険料の高騰を避けたい国や保険者としては、過去の例を見ても(2)に傾きがちです。次回の報酬改定でも、(1)もある程度は実施するものの、改定基準のハードルを上げつつ(2)に比重をかける方向性がうかがえます。

とはいえ、先のハインリッヒの法則で推察するなら、1市町村あたり10件の事業所・施設がすでに休廃業・撤退に傾いています。その中で(2)に比重を置いた改革を進めれば、地域の介護資源がまたたく間に減少する可能性は高いでしょう。介護保険が始まる直前、「保険あってサービスなし」という状況が危惧されましたが、それが20年の時を経て現実化する危機が近づいているわけです。

確かに、基本報酬を大幅に上げてサービス資源のすそ野が広がれば、劣悪な事業所・施設もその分増えることになるかもしれません。高齢者の保険料の高騰も避けられないでしょう。しかし、それでも「サービス選択の余地がない」という状況は避けなければなりません。それが避けられなければ、利用者の選択権は保障されず、それこそが「高い保険料に見合わない」という制度不信につながります。

次期改正は上記の(1)、つまり大胆な基本報酬アップに施策を集中させること──今この方針を取らなければ、制度崩壊への道は後戻りがきかなくなるかもしれません。

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