訪問介護調査に浮かぶ足元の危うさ

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2021年度の介護報酬・基準改定の行方を左右することになるのでしょうか──。2018年度改定の影響について、「2020年時点」での調査結果の速報(案)が示されました。ここでは、ケアマネ実務にも影響を与えている「訪問介護」にかかる改定の影響を取り上げます。

生活援助従事者研修の修了者の採用状況は?

2018年度の訪問介護にかかる改定では、「生活援助」をめぐるものに注目が集まります。今回の調査でも、「生活援助」をめぐって以下の3つが焦点となりました。

具体的には、(1)新たな任用要件となった生活援助従事者研修の修了者の活用、(2)頻回の生活援助における市町村へのケアプラン提出等の対応、(3)自立生活支援のための見守り的援助の明確化です。このうち(2)については、主にケアマネ側の実務にかかわります。それぞれについて、ポイントを取り上げましょう。

まず(1)ですが、2018年度スタートの生活援助従事者研修について、その修了者を採用したことがある事業所の割合は2.3%にとどまっています。ご存じの通り、2018年度の訪問介護の報酬改定は、「20分以上の身体介護」で引き上げとなりましたが、逆に「生活援助」は引き下げとなっています。

前回の引き下げ幅は「特に大きい」というわけではないものの、軽度者の生活援助の「総合事業への移行」などが将来的な論点としてくすぶっています。ここに慢性的なヘルパー不足という要因が加わっているにもかかわらず、採用がわずか2.3%というのは施策の実効性が問われざるを得ないでしょう。

頻回の生活援助プラン提出を巡るもやもや感

次に(2)の「頻回の生活援助へのプラン提出等の対応」ですが、これは居宅介護支援事業所が調査対象となっています。それによれば、「頻回の生活援助を位置づけたプラン作成」を行なった事業所割合は8.1%。そのうち、「業務負担が増えた」という回答は48.5%と約半数に達しています。市町村への届出などの新たな実務が生じるわけですから、この数字はある意味で当然なのかもしれません。

問題は、負担の中身(質問では「制度の課題」・複数回答)として、「地域ケア会議等での説明に時間がかかる」(29.3%)よりも「市町村に提出する資料の作成に時間がかかる」(47.8%)が大きく上回っていることです。

さらに、「制度の課題」として「利用者の自立支援・重度化防止に資していない」という回答も2割以上に達しています。地域ケア会議での検討によって(自立支援に資する)よりよいプランができる──というより、「事務負担が増えた割に、自立支援・重度化防止に資していないケースも見られる」という不満がくすぶっている状況が見受けられわけです。

前回の改定を受け、それでも「頻回の生活援助」をプランに位置づけざるを得ないというケースは、ケアマネ判断によって「強い必要性」が認められていると言えます。となれば、問題はそのケアマネ判断が信頼されていないという現場実感にあるのかもしれません。

見守り的援助の明確化は現場に届いているか

さて、(3)の「見守り的援助の明確化」ですが、これは「生活援助の適正化」という流れの中で、「見守り的援助(身体介護)」という形でニーズを取りこぼさないことを目的の一つにした改定です。これをめぐる調査の中でも、見過ごせない課題が浮かんでいます。

調査では、訪問介護事業所と居宅介護支援事業所の両方に制度の認知や実施状況、効果・課題などを尋ねています。それによると、認知・実施状況(実施については、訪問介護には「サービスの実施」、居宅介護支援事業所には「プランへの盛り込み」を質問)は、ともに訪問介護の方が低くなっています。効果・課題についても、訪問介護側で「無回答」の多さが目立っています。つまり、現場の問題意識が整っていない様子が浮かんでいます。

もちろん、調査の対象事業所同士が「連携している」わけではありません。しかし、いずれにしてもこの差こそが、「担当者が同じ方向を向きながらチームケアを推進していく」うえでの課題となるのは間違いないでしょう。

ケアマネジメントが実際のサービスに十分反映されていないケースは、たびたび聞くところです。両者の意思疎通が未完全な中で、矢継ぎ早な制度の微調整ばかりが続くと、いずれ大きな問題に発展しかねません。

足元がぬかるんだまま荷物を増やされても…

こうして見ると、国が意図するしくみの見直しに、現場が追いついていない、あるいは現場が振り回されているだけという状況が少なからず感じられます。たとえるなら、足元がぬかるんでいるのに、持たされる荷物の量が増えたり、次々と差し替えられていく──という状況が延々と続いているといえます。

今、新型コロナ禍により「足元のぬかるみ」はさらに激しさを増しています。(団塊世代が全員75歳以上を迎える)2025年という大きな節目の前に、今回の改定は、現場従事者が腰をすえて自立支援・重度化防止について学び、自信をもって自らを高められる環境を築くことに徹してもらいたいものです

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。