いよいよ始まる?加算の整理

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2021年度の介護報酬・基準改定に向けて、介護給付費分科会ではサービスごとの議論に入っています。一方で、サービス枠を超えた「横軸」の課題が多いのも、今回の改定議論の特徴です。その一つが、既存の「加算」の取扱いです。基本報酬への組み入れなど、どのような改定が行われるのかを展望します。

制度スタート時から「コード数」は25倍強に

9月30日の介護給付費分科会に提示された資料では、制度スタート当初(2000年度)と現行を比べて、「加算」がどこまで増えたかが示されています。それによれば、通所介護で「5→24(種類)」と4.8倍、特養ホームに至っては「8→55(種類)」と7倍近くに増えています。サービスコード数も、居宅介護支援で「6→154」、25倍強という具合に、その伸びの大きさが改めて実感できるでしょう。

国は、介護現場の書類削減や実務負担減を強く打ち出しています。その流れに沿う形で、少なくとも給付管理上の負担減を視野に入れつつ、「加算」の大幅な整理・再編がいよいよ実現する可能性が高まっています。

では、どの加算をどのように整理するのか、基本報酬に組み入れるなどの対応をとるのか。その指標のヒントとなりそうなのが、「各種加算の算定状況」です。分科会資料では、2か年平均での算定率が「高いもの(80%以上)」と「低いもの(1%未満、さらに算定のないもの)」がそれぞれ示されています。

加算を基本報酬に組み込むとすれば…

分科会では、各加算がもたらす効果などの精査を前提としつつ、「算定率80%以上のものは(加算として定着しているものとして)基本報酬に包含することも考えるべきではないか」という意見も出されています(この場合、加算を組み込んだ分、基本報酬の引き上げが前提となると考えられます)。

仮に基本報酬へと組み込まれるとして、具体的にどのような対応が必要となるでしょうか。加算には「算定要件」がありますが、基本報酬への組み込みとなれば、サービスの人員・基準への反映が想定されます。

たとえば、算定率80%以上の加算の中に、特養ホームにおける栄養マネジメント加算があります(算定率86.7%)。同加算では、常勤の管理栄養士の配置が算定要件の一つとなっています。一方、特養ホームの人員基準では、必置となっているのは栄養士。つまり、加算の算定要件を人員基準に反映するとなれば、必置となっている「栄養士」を「管理栄養士」へと変更することが考えられるわけです。

運営基準の改定に対応できない場合は減算?

では、これを満たせない場合はどうなるのでしょうか。一般的には、基準が満たせなければ「減算」となります。しかし、特養ホームの栄養マネジメント加算では、未算定が13.3%と1割を超えています。1割の特養が減算となるのは、影響が大きいでしょう。

そこで、「激変緩和措置」として一定の経過措置を設け、その間に「栄養士」に「管理栄養士」資格をとってもらうといった改定案が浮上します。ただし、プロセス評価に該当する算定要件(例.多職種協働による栄養ケア計画の策定など)を運営基準へと反映させるとなればどうでしょうか。「新たな有資格者を配置する」などの手続きが生じなければ、経過措置が設けられない可能性もありそうです。

利用者の立場から見た場合に必要なことは?

課題となるのは、この点です。たとえば特養ホームの施設数は2018年度時点で1万326なので、先の栄養マネジメント加算を「未算定」の施設数は、単純計算で1373か所にのぼります。これだけの施設が新たな運営基準のための対応を迫られることになります。

「基本報酬が上がることを前提とすれば、一定の現場負担増は仕方ない」という意見もあるでしょう。「その分、利用者の重度化防止が進むなら、中長期的には稼働率の上昇による収益改善も期待できる」という考え方もあります。問題は、「中長期的な効果が得られる」までのタイムラグにあります。

基本報酬が上がれば、利用者の負担増となります。それに見合った効果が「実感」できるまでの間、利用者の理解を確実に得ることができるのかが問われるわけです。

そもそも、これまでの「加算」対応について、国と利用者側との間でどこまで共通理解を深めるキャッチボールができていたのでしょうか。保険者や業界団体の要望、あるいは政府の方針をくみつつ次々と加算が生まれてきた中で、利用者側の意向確認は十分に行われてきたのでしょうか。もっと言えば、利用者側の意向確認という「重し」が不十分──それが大量の加算を生み出してきた一つの背景とは言えないでしょうか。

この点を考えたとき、今回の加算整理(=運営基準の改定)をきっかけに、「利用者側の意向」を再確認する手続きを見直すことも必要ではないかと考えます。これは制度の持続可能性を議論するうえでも、ますます大きなテーマの一つとなっていくはずです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。