従事者と利用者は「連帯」できるか

今回は、介護保険制度の「根本的な課題」の一つを取り上げます。それは、現場の介護従事者と利用者の間で「それぞれが望む利益の方向性が異なりがち」という点です。しかも、この課題は近年の人材不足や新型コロナ感染下で、ますます大きくなる可能性があります。

処遇改善加算の拡充を利用者はどう見るか

2012年度に現場の人材不足対策として介護職員処遇改善加算が導入され、その後もたびたび拡充が図られてきました。これは区分支給限度基準額には含まれないものの、介護報酬上の加算であるゆえに、わずかながら利用者負担の上乗せにつながります。

利用者としては、「サービス提供者の不足に対処したものだから仕方ない(それによって、地域のサービスが弱体化したら困る)」という思いで許容しているはずです。一方で、「サービス資源の縮小・弱体化を回避する」という以上には、「自分たちにとっての明確な利益」が見えにくい加算であることも事実です。

そうした中、2015年度以降は2割、3割負担が導入され、「原則2割負担」とする改革案もくすぶっています。先に述べたように、区分支給限度基準額には含まれていませんが、上記のような負担増の範囲が増大していけば、どこかで「納得がいかない」というボーダーラインに達する可能性もあるでしょう。

新型コロナ禍の特例、従事者は歓迎しても…

今回、新型コロナ禍ではさまざまな制度上の特例が設けられました。その一つに、通所介護で2区分上位の報酬を算定できるしくみがあります。通所介護での新型コロナ対応にかかる負担を考慮したものですが、区分支給限度基準額に変更がないなど、利用者には負担感の大きい内容となっています。

ニュースでも取り上げていますが、この特例について、淑徳大学の結城康博教授が主に居宅サービスを担う職員に対して行なった調査結果が示されました。それによれば、「評価する」が「評価しない」を10ポイント以上上回っています。ただし「分からない」も36%に達するなど、現場側の迷いもうかがえます。

現場従事者にしてみれば、新型コロナ対応の負担感は大きく、報酬上で評価の上乗せを望むのは当然です。ただし、利用者側としては、さまざまな制限が加えられる中で感染リスクを懸念しつつのサービス利用となっています。一定の「不利益」を被る一方で「負担」が増えるとなれば、(同意が要件であるとはいえ)「仕方ない」という許容のボーダーラインは厳しくなっていると考えるべきでしょう。

自立支援・重度化防止をめぐる「利益相反」

この他にも、自立支援・重度化防止の強化に向けた報酬改定の流れでも、同様のことが考えられます。機能向上等については、サービス提供側とともに利用者自身の「意欲と頑張り」も必要です。そのプロセスでの「加算」が厚くなった場合、利用者側には「頑張っているのに負担が重くなる」という意識も生じがちです。それが「自立の促進」という利用者側のインセンティブとうまくバランスがとれるのか──同種の加算が厚くなればなるほど、この問題が大きくなりかねません。

もちろん、要介護度が改善すれば基本報酬の適用区分が低くなるケースもあり、利用者側には大きなインセンティブとなるでしょう。しかし、その場合にはサービス提供者側にマイナスのインセンティブともなりえます。

現在、要介護度に連動しないアウトカム評価の拡充も検討されています。とはいえ、いずれにしても自立支援・重度化防止にかかる加算が厚くなればなるほど、サービス提供者側と利用者側の「利益相反」の色が濃くなるという懸念も高まることになります。

従事者と利用者の対立構図が強まりがち中で

重度者対応・重度化防止や感染等対策への現場負担が増える流れは今後も加速していくでしょう。一方で、利用者の負担や我慢のレベルも上がってくるとなれば、サービス提供側と利用者の間の溝は深まりかねません。

問題は、利用者側の不安・不満が現場の従事者に直接ぶつけられがちな状況があることです。それにより、介護保険に生じている構造的な問題が、現場レベルでの対立に転嫁されてしまう可能性もあります。国が進めるハラスメント対策等だけでは、この不毛な状況の解決には限界も生じてくるでしょう。

となれば、現場従事者と利用者が「同じ方向を向く」ために、認識を共有しお互いを理解するという機会や方法が求められます。

たとえば、地域の職能・労組団体と当事者のための各種団体が協働で、「介護保険が直面している課題」にかかる勉強会を催したり、利用者向けに「介護保険の現場課題」をまとめたリーフレットを作成するという具合です。後者のリーフレットをケアマネやサービス担当者が利用者に配布し、啓発に活かす方法もあるでしょう。国に対しては、こうした活動への予算的フォローなども求められます。

従事者と利用者が現場で「連帯」を深められるかどうか。これは、介護保険の未来を左右する大きなポイントになるかもしれません。

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