予想とうらはらの厳しい改定に?

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新内閣の誕生により、2021年度の介護報酬・基準改定がどうなるのかについて掘り下げたいと思います。新型コロナ感染を受けてプラス改定となる公算が大きいとされる一方、前回述べたように「予測とうらはらに厳しい改定となる」という可能性も垣間見えています。

7月に財政制度分科会が打ち出した見解

実際の介護報酬がプラス改定となるのか否かについては、今月末に予定される来年度予算の概算要求後の政府内での編成を経て明らかとなります。その過程(11月)で、国の財政をつかさどる財務省の財政制度等審議会(財政制度分科会)から、次年度予算にかかる建議が出される予定です。いわば財務省からの予算編成にかかる「要求」です。

ちなみに、今年7月時点で、財政制度分科会会長の談話が出されました。11月の建議前の概算要求に対する「クギ刺し」と言っていいでしょう。それによれば、当面の財政運営は、「新型コロナウイルス感染症拡大への対応について、国民の生命と財産を守り不安を解消していくことが最優先」としています。

その一方で、「現行制度では、社会保障費が大幅に増加し、現役世代の負担は大きく増加する」と述べています。そのうえで、「これまで進められてきた取組みを含め、社会保障制度の改革をいささかも後退させることなく、着実に進めていく必要がある」としています。

重要なのは、現場負担と報酬のバランス

財務省側の物言いとしては、「いつも通り」という見方もできるでしょう。ただし、新内閣の基本方針でも、最優先課題である新型コロナ対策について「メリハリ」づけを求めています。この点からも、「予算の中身を大胆に重点化」(概算要求の具体的な方針より)という路線が堅持されるのは間違いなさそうです。

となれば、どういった改定が予想されるのでしょうか。介護崩壊も危惧される中で、対世論アピールという点からも「プラス改定」の可能性は高いはずです。ただし、現場視点で見た場合、数字上のプラス・マイナスよりも重要なのは、「実務上の負担と実際の収支、そして報酬上の評価」のバランスにあります。

たとえば、感染対策等にかかる基準のハードル引き上げとともに、基本報酬を引き上げるとします。問題は、基準を満たすうえでの人員やコスト、新型コロナによるサービス休止や利用控えにともなう収益減などによるマイナスに見合うのかどうかということです。

仮に見合わないとなれば、加算等によるカバーが必要です。そこに自立支援・重度化防止や(看取り等も含む)重度者対応のインセンティブをあてていくという方策が考えられます。全体としてはそこそこプラス改定となりますが、加算によるインセンティブの恩恵がおよぶかどうかは、事業者の体力・体質に左右されることになりそうです。

「プラス改定」の中身がどうなるかが問題

このやり方は、2018年度改定の時とよく似ています。2018年度もプラス改定(+0.54%)となりましたが、自立支援・重度化防止や対医療連携などへのインセンティブに依る部分が大きかったのが特徴です。結果として、「2015年度の大幅なマイナス改定の影響を引きずりつつ」のコスト増などからサービス全体の収支差率は悪化傾向となりました。

今回は、「新型コロナ禍による影響を引きずりつつ」の新たなコスト増を迫られるという図式となる可能性が高いわけです。新内閣として「プラス改定」をアピールしたとしても、業界や現場の実態は意外に厳しい、もっと言えば「(法人規模などによる)二極分化」がさらに進むという懸念が浮かんできます。

となれば、ポイントは、上記の「新型コロナ禍による影響を引きずっている」という部分を見込んだうえでの「プラス改定」となるかどうかにあります。この部分が重点化から外されてしまえば、若干のプラス改定もほとんど意味をなさないことになります。

2014年改革に携わった厚労相が再任の意味

そうした中、新内閣の誕生にともなって厚労大臣も変わりました。着任した田村大臣は第二次安倍内閣のもとで厚労大臣を務めたほか、衆議院の厚労委員会理事や与党・自民党の新型コロナ関連対策本部長を歴任するなど、近年の厚労行政に密着してきました。

実際、就任後の記者会見を見ても、新型コロナ等への状況認識は深く、実務にも精通している様子が見受けられます。ただし、思い出すことがあります。2014年の介護保険法の改正時に厚労大臣としてのぞんだ際、総合事業への予防訪問・通所介護の移行や2割負担の導入といった改革を押し通したことです。

この時の経緯を念頭におくと、「重点化」という名のもと再び現場には厳しい改革が待っているのかもしれません。それを経験にもとづく力量で断行できる大臣として、今回の人事が行われたというのは考えすぎでしょうか。

ちなみに、現在国会は閉会中ですが、閉会中の審査対象には、与党提出の認知症基本法案、野党提出の介護従事者等の人材確保に関する特別措置法案などが上がっています。こうした審査を通じて、新任の厚労大臣の見解などに注目してみましょう。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。