モニタリング規定はどうなるのか?

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新型コロナ禍により、基準等の臨時的な取り扱いが第15報まで発せられています。こうした取扱いが、どこまで「恒久的なもの」になるのかが、次期介護報酬・基準改定の中心的なテーマの一つです。ケアマネにとって気になるのは、サ担会議の開催もさることながら、モニタリングに関する規定でしょう。

「ICT活用」と「臨時的な取り扱いの継続」?

まず、改めて厚労省通知を確認します。月1回のモニタリングについては、「基準等の臨時的取扱いについて」の第4報で、「感染防止の観点から(中略)月1回以上の実施ができない場合」に、柔軟な取り扱い(未実施による減算等を行わない)が可能とされています。

これが、果たして恒久的なものになるのでしょうか。注意したいのは、介護給付費分科会等での論点は、介護現場の生産性向上というテーマと絡んで、「ICT等の活用」を前提とする流れに傾いていることです。

ヒアリングにおける病院4団体からの提言だけではありません。厚労省側も、今年7月の規制改革推進会議の答申にある「ICT活用による訪問等の代替えを含めた業務負担軽減について検討する」ことを引き合いに出しています。つまり、「月1回」というモニタリングの回数を緩和する──という形での「臨時的な取り扱いの恒久化」という方向性は、今のところ表に出る可能性は低いわけです。

恐らく最終的な改定内容としては、モニタリングを「ICTでも可」とする規定を設ける一方で、「ICTに乗り切れないケース」については、通知による「臨時的な取り扱い」の適用を継続するのではと思われます。

「月1回以上」の規定見直しは浮上するか

とはいえ、新型コロナ感染の収束がなかなか見られない中では、現実問題として「月1回以上のモニタリング訪問」の困難状況が数年単位で続く可能性は強まっています。「いずれにしても訪問は難しい」というケースが実質的に恒久化すれば、「月1回以上」という規定をどうするかというテーマは、2024年度改定の議論で再浮上するかもしれません。

では、仮に「月1回以上」という規定を外すことになった場合、どのような改定が考えられるでしょうか。たとえば、「利用者状況に著しい変化が予想される場合」や「利用者からの適切な理由による求めがあった場合」などの要件を設けたうえで、感染防止対策を徹底しつつ「訪問によるモニタリングを行なう」といったしくみなどが想定されます。

ちなみに、上記で「著しい変化が認められた場合」ではなく「予想される場合」としたのは、「変化が認められた時点でモニタリングをかけるのでは遅い」という考え方があるからです。これを無視してしまうと、利用者の状態が悪化してから対処するというケースが増え、ケアプラン変更などケアマネ側の実務は逆に増えていくことになります。

「回数」をはずす代わりに詳細な要件設定?

問題は、何をもって「著しい変化が予想される」とするのか、利用者からの求めによる「適切な理由」などをどう判断するかという点でしょう。現任のケアマネとしては、「プロなのだから、そのあたりは自分たちに任せてもらえばいい」と考えるかもしれません。

しかし、給付が絡む以上、国としては「月1回以上」という数字をはずす代わりに、より具体的な要件を設定してくるはずです。となれば、ケアマネの働きやすさに直結する改定に向けては、現場が培ってきた知見がどれだけ反映されるか」がポイントになります。

たとえば、「著しい変化」を生み出す要因には、医療的観点(療養管理がしっかりできているか否かなど)だけでなく、本人の生活意欲を左右するさまざまな環境因子(家族や地域との関係など)も含まれるはず。とかく医療主導になりがちな制度改正・改定の中で、どこまで介護側の知見が反映されるかという課題が、ここでも問われてくるわけです。

ケアマネ不在の改定にしないためには…

全サービスの中でも、居宅介護支援は経営数値が特に厳しくなっています。そのため、次期改定で基本報酬などが大幅に引き上げられる可能性もあります。新型コロナ対応への評価がもちろんですが、政府方針でもある「ケアマネジメントへのICT導入を進める」という名目が立ちやすいことも背景の一つです。

問題はその後(2024年度改定など)です。新型コロナによる財政悪化の中で、政府はどこかのタイミングで締め付けを図ろうとするはず。その一環として、ケアマネジメント全般にかかる基準等の明確化・標準化が一気に進むことは容易に想像できます。その先鞭として、モニタリングの要件が標的となる可能性は十分にあるわけです。

そこで問われるのは、ケアマネ側の職能団体などが先手を打ち、現場で蓄積した知見を体系化・標準化したうえで提案できるか。それができないと、ケアマネ不在のモニタリングの規定が誕生しかねません。「臨時的な取り扱いが恒久化すれば、訪問によるモニタリングは必要最低限で済む」などと軽く見ていると、厳しい状況はすぐにやってきます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。