次期改定率「先読み」のヒントは?

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2021年度の介護報酬改定については、新型コロナの感染対策等にかかる現場負担を考慮したうえで「引き上げ」となる可能性が高まっています。仮に引き上げられるとして、どの程度の改定率になるのか──従事者や事業者としては、もっとも気になる点でしょう。

通常なら改定率が示されるのは年末だが…

介護報酬の改定率は、翌年度予算の編成を通じて決められます。2021年4月からの改定率であれば、2021年度予算の編成が行われたタイミングというわけです。

予算編成は政府が行ないますが、毎年度の予算案の取りまとめは、通常は年の瀬にかかります。その時点で「改定率」が明らかにされ、介護給付費分科会の審議結果に、具体的な報酬単価を反映させる作業が行われます。

この作業を経て、サービスごとの具体的な単価が示されるのが年明けとなります。(なお、予算案は年明け1月に召集される通常国会に提出されて、審議が行われます)

さて今年の予算編成ですが、ご存じのとおり、新型コロナ感染症の影響によって、いつもとは少し事情が変わっています。これは、今後の感染状況などが予測しにくく、予算編成の時点で国家レベルの新たな課題が生じる可能性をくまなければならないからです。

そのため、予算編成の「たたき台」となる、各省庁からの概算要求(財務省に対して各省庁が要求する予算の概要)の提出期限が、通常の8月末から1か月遅れとなる9月末に設定されました。さらに、概算要求の時点で「予算額」を決めることはせず、しくみをできるだけ簡素なものにするとしています。

9月末の概算要求で「見えてくる」ものは?

この概算要求の「簡素化」とは、具体的にどういうものなのでしょうか。たとえば「先読み」したい事業者などにとっては、改定の方向性を見通しにくくなる可能性もあります。

「いずれにしても、改定率は年末まで明らかにならないのだから、概算要求の時点で介護報酬の動向を予測することは難しいのでは」と思われるかもしれません。確かに概算要求では改定率は示されず、「予算編成過程で検討する」とだけ記される形となっています。

しかし、たとえば介護報酬の改定が行われた2018年度の概算要求では、ちょっとしたヒントが垣間見えていました。それは、2015年度改定時点の改定内容の一部が資料として引き合いに出されたことです。2015年度改定といえば、ご存じのとおり2006年度に次ぐ大幅な報酬引き下げとなった一方、「重点化」部分では引き上げも行なわれています。

具体的には、「処遇改善にかかる部分(介護職員処遇改善加算の上乗せなどを含めて+1.65%)」と「中重度の要介護者や認知症高齢者等の介護サービスの充実(+0.65%)」です。実は、この2点が2018年度の概要要求内で参考として示され、「(これらを)引き続き行なう」としていました。2015年度改定の中から「プラス部分」だけを取り上げ、これを次の改定の柱とする方針を示していたわけです。

7月に閣議決定された骨太の方針にも注目

結果はどうだったかと言えば、2018年度は2期ぶりにプラス改定となりました。改定率は+0.54%と、2015年度の引き下げを補うのは難しいレベルでしたが、重点化部分のうちの「中重度者・認知症高齢者対応」での評価を継続させたという意図は浮かんできます。

では、処遇改善分はどうなったのでしょうか。この時の概算要求を見ると、介護分野の生産性向上に向けた予算の上乗せが目立ちます。これは、その前年度(2017年度)の補正予算で設けられた項目の拡充です。内閣府の骨太の方針などでも重点項目としています。政府が予算のポイントをどこに置いていたかが浮かんでくるのではないでしょうか。

このように、概算要求やそのベースとなる内閣府の骨太の方針は、「次の報酬改定がどうなるか」をうかがうヒントとなるわけです。そして、今回の骨太の方針(今年は7月に閣議決定)といえば、やはり新型コロナ感染症下での危機の克服が主題となっています。

ちなみに、財務省の概算要求の方針では、新型コロナ感染症への対応について、「別途、所要の要望」を行なえるとしています。その代わり、「問題を徹底して排除しつつ、予算の中身を大胆に重点化する」ことを求めました。

概算要求は次期内閣の体質を知る試金石に!?

以上の点から、「新型コロナの感染対応」という部分では、報酬改定分も含めた大幅アップが期待できそうです。一方、「大胆な重点化」が図られるとすれば、「下がる部分もある」という可能性も頭に入れなければなりません。

いずれにしても、その具体像を探るための概算要求のあり方が変わるとすれば、今回はぎりぎりまで具体像が浮かびにくくことも考えられます。次の予算が新内閣下で編成されるとなった場合、そのあたりの政府の透明性や国民へのメッセージの発信力を問う大きな試金石となるかもしれません。まずは9月末の概算要求に注目してみましょう。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。