今冬トリプルリスク前に必要なこと

新型コロナ感染症の影響により、介護現場は感染防止にかかる業務の負担増と収支の悪化という二重の厳しさに見舞われています。そうした中、現場の人材不足はどうなっているのでしょうか。厚労省が公表している一般職業紹介状況の今年7月分のデータなどをもとに、現況を掘り下げてみましょう。

依然として高い介護分野の有効求人倍率

厚労省は、介護保険部会や介護給付費分科会などで「介護分野と全職業の有効旧倍率の推移」をたびたび提示しています。暦年の直近データは2019年分ですが、それによれば全産業の1.45倍に対し、介護分野は4.20倍。3倍近い開きが見られます。

2019年は、世界貿易の状況や消費増税の影響により、新型コロナの感染拡大前から景気後退の兆しが見えていたと言われます。そうした状況を反映されているのか、全職業の有効求人倍率は頭打ちの様子(2018年と有効求人倍率に変化なし)が見てとれます。

一方で、介護分野についていえば、2018年の3.90倍から2019年は4.20倍と、依然として急速な右肩上がりが続きました。全職業と比較して、介護分野の人材不足が「異次元」とも言える領域に入ってきたといえます。

では、この状況が新型コロナの感染拡大によってどうなっているのでしょうか。冒頭で述べた今年7月の数値(上記のデータと合わせるため「パート含む」数値を採用)を見ると、全職業では0.97倍と1倍を割り込みました。一方、介護分野は3.99倍となっています。

新型コロナが介護人材状況にどんな影響を?

この数字は「季節調整」を行なっていない原数値ですが、全職業の落ち込みと比較すると、依然として介護分野の有効求人倍率の高さが目立っています。新型コロナの感染拡大が労働市場に影響を与える中で、両者の差はさらに開き始めたと言えそうです。

言い換えれば、経済の低迷によって全産業平均では「人材の充足感」が見られる一方で、介護分野は「深刻な人材不足」がなおも続いていることになります。仮に両者の差が開き始めることになれば、新型コロナをめぐる介護現場ならではの事情が、人材参入の重しになっていることは明らかです。

たとえば、「重症化リスクの高い要介護高齢者にサービス提供を行なう場合、感染防止に向けた現場負担は極めて大きくなるのでは」という不安。「現場で感染者や濃厚接触者が出た場合に、事業継続がどこまで可能なのかが見えにくい」という不安──これらが、介護分野の求職者に、参入に向けての二の足を踏ませている可能性は高いでしょう。

となれば、今は「全産業と介護分野の有効求人倍率の差」はぎりぎりの状況にあると言えます。これを放置した場合、今冬に予想される「新型コロナ+インフルエンザ+その他冬季に流行しやすい感染症(ノロウイルスなど)」という複合的なリスクが深刻な事態を招きかねません。つまり、全産業の有効求人倍率は下がっているのに、介護分野は逆に上がっていくという真逆の状況に陥ることです。

求職者に向けた緊急メッセージが必要な時

上記のような事態に至った時、懸念すべきは、堰を切ったように介護分野の有効求人倍率の急上昇が始まることです。となれば、今のタイミングが重要です。たとえば、2021年度の介護報酬改定の動向とは別に、政府と業界団体が「安心してキャリアを積める業界であり、働く人を確実に守る。これは約束する」という求職者向けの強いメッセージを発することが必要ではないでしょうか。

このことは、労働市場との対話に一定の責任を持つべく経済団体も同様です。日本の未来を担う人材を育成するうえで、「介護分野は別」ということはあり得ないでしょう。介護分野で働いている人々も、税金や保険料をおさめ、経済を回すための消費に貢献していることに変わりはありません。彼らのキャリアをしっかり支えることは、経済団体として当然の使命と言えるはずです。

にもかかわらず、経済団体は今回の介護報酬増をけん制する立場を崩していません。確かに介護保険料が上昇すれば、現役世代および事業者の負担増につながります。しかし、すでに述べたように、今は介護資源が大きく崩れてしまうか否かという瀬戸際にあります。介護資源が崩壊すれば介護離職は急増し、それは日本の経済・財政状況をさらに悪化させる要因となるのは間違いありません。

すでに、現場では今冬の「トリプルリスク」に備えた対策が始まっています。このタイミングで労働市場にどんな働きかけができるのか。国と民間の知恵の結集が求められます。

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