新型コロナ対応の報酬評価、課題は?

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2021年度の介護報酬改定に向けて、介護給付費分科会の議論が続いています。次期改定がこれまでと大きく異なるのは、言うまでもなく「新型コロナの感染防止・対策」が恒常的な現場負担としてのしかかっている点にあります。これを報酬上でどう評価するのか、もう一歩踏み込んだ議論も求められます。

感染防止へ評価、具体的な方策を予測すると

9月4日の午後に開催される分科会では、感染症や災害への対応力強化が全サービスを通した軸のテーマとして議論される予定です。8月27日の開催でも、老施協から「感染拡大防止のための適切な対応」を報酬上で評価すべきであることが改めて提案されました。

具体的に、どのような形での評価になるのかを少し予測してみましょう。

分かりやすいのは、感染症対策にかかる基準について、新型コロナを想定した改定を行なうことです。そして、これを実践することを前提として、基本報酬の引き上げを行なうという方法です。逆に言えば、「基準通りに実践していない場合」には減算(基本報酬の引き上げ分はなくなる)となります。

もう1つ、「加算による評価」という方法も考えられます。これは、基準改定も小幅に行ないつつ、さらに手厚い対応を要件として「新型コロナ感染対策加算」のようなしくみを設けるというやり方です。基本報酬も一定の上乗せを行なうことになるでしょうが、あくまで前回の介護事業経営の概況調査(新型コロナ前の状況を反映したもの)のみを考慮した範囲にとどまる可能性が高いといえます。

既存の加算取得が直面している課題も重要

いずれの手法を取るかについては、これから具体的な論点として上がってくるでしょう。ポイントは、前者の「基準改定+基本報酬のアップ」であれば、基本報酬をどこまで上げるのか。後者の「小幅な基準改定+原則加算」であるなら、加算単位をどのレベルに設定するのかという点にあります。

ここで考えたいのは、上記の基本報酬や新加算を見るだけでは「足りないものがある」ということです。視野に入れるべきは、既存のさまざまな加算との関係です。

昨今の介護報酬改定では、自立支援・重度化防止にかかる加算があらゆるサービスを通じて強化されています。生活機能向上にかかるものから、口腔・栄養状態の改善にかかるものまで、ひと昔前とは比べ物にならないくらい種類が増えました。と同時に、各加算要件にかかる多職種連携や計画作成など、加算にともなう実務も増大しています。

ここに、新型コロナの感染拡大防止という要素が絡むとどうなるでしょうか。たとえば、生活機能向上にかかる計画策定でも、「感染防止に配慮する」ための方策が入らざるを得なくなってきます。同じ目的の機能訓練であっても、三密を避けたり、ソーシャル・ディスタンスを確保するなど、取組みにかかる手間はおのずと増えてきます。目標達成にかかる期間なども伸びることが考えられます。

施策目的のために第二、第三の「慰労金」を

つまり、こういうことです。仮に新型コロナ禍でも、自立支援・重度化防止に向けて「きちんと加算を取ろう」という意欲があるとしましょう。ところが現場としては、その一つひとつに実務負担が上乗せされたり、効率の低下が懸念されるという状況と向き合わざるを得ません。その分、各加算単位の上乗せを図るのか。それとも、先の基本報酬や感染防止加算について、既存加算の状況まで織り込んで設定していくのかが課題となるわけです。

この点を見落としてしまうと、基本報酬がある程度上がったとしても、自立支援・重度化防止に向けた加算取得の手間までは「カバーできない」ということになりかねません。これまでの施策効果を継続させていくには、既存の加算一つひとつにかかる(新型コロナによって上乗せされる)手間にもスポットを当てることが必須となってくるでしょう。

もちろん、国としては「そこまでの引き上げは難しい」という姿勢になるかもしれません。なぜなら、先に述べたように「目標達成の期間が延びる」など加算の効率が低下しがちな中、「加算にかかる手間」だけを評価するのは(機能訓練等の利用者負担が上がるという点も含めて)難色を示しやすいからです。

となれば、ポイントは「ぎりぎりの状況でも自立支援・重度化防止に向けて頑張っている」という現場職員に対し、その「頑張り」に応える手当てを別途行なっていくことでしょう。厚労大臣は引き続いての慰労金の支給には否定的ですが、国の施策目標を達成するという観点に立てば、(少なくとも次の報酬改定までのつなぎとして)第二弾、第三弾の支給は理に叶った政策と言えるはずです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。