医療側が求めるケアマネ改革の意図

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8月19日の介護給付費分科会では、全日本病院協会など病院四団体からのヒアリングで「分科会への要望」が出されました。高齢患者の在院日数の減少が進む中、病院側もケアマネとの密接な連携がますます欠かせません。今回の要望も、そうした視点での居宅介護支援にかかる課題の提示が目立っています。

病院団体が発したケアマネ関連の4テーマ

病院四団体が発している、居宅介護支援にかかる課題の提示を改めて確認しましょう。

(1)オンラインによるサ担会議やモニタリングの実施について、新型コロナの感染拡大下での「柔軟な対応を可能とした規定」を、ICT等の活用によって引き続き(恒常的に)可能にすることができないかということ。

(2)利用者の入院時の情報提供に際して、ケアマネからの提供情報の中で、医療機関側から見て足りないものがあると指摘。そこで、必要な情報を明確にし、相互に周知していくことが必要ではないかということ。

(3)患者の退院決定から退院までの期間が短いことにより、ケアマネの退院支援が困難になっていると指摘。この点について、さらに議論を進める必要性があること。

(4)末期がんの利用者にかかるターミナル・ケアマネジメントについて、加算が少ない理由となっている要件を法定研修等でケアマネに周知すること。また、「ケアマネジメント・プロセスの簡素化」について、医師への周知を進める必要もあるのではないかということ。

病院側が置かれている状況に目を配りたい

ケアマネ側から見た場合、たとえば、(1)や(3)は「業務の効率化」という点で関心の高いテーマでしょう。ただし、上記の4点はあくまで「医療側」の立場から「どうあるべきか」を示したものという点に注意が必要です。

言い換えれば、地域包括ケアシステムの推進という大方針の中で、医療側の業務環境の整備という隠れたテーマがそこにあります。その点で、上記の4つをばらばらにとらえていると本質を読み損ねる懸念があります。

ちなみに、医療側が直面しているミッションといえば、高齢患者への円滑な入退院支援を通じて、早期の在宅復帰につなげていくこと。そして、高齢患者の在宅療養の環境を最期まで整えていくことにあります。いずれも、地域包括ケアシステムを主軸とした近年の診療報酬改定の中で、医療経営のあり方を大きく左右する課題になってきています。

と同時に、わが国が直面する労働人口減の中で、医療職不足にいかに対応していくかという、もう一つの軸がここに加わってきます。具体的には、地域包括ケアシステムの推進下での「医療職による対他職種連携の効率化」というテーマが通されているわけです。

上記の事情を頭に入れつつ、たとえば(1)のテーマを掘り下げます。ここでは、サ担会議やモニタリングにかかる「ケアマネ業務の省力化」に注目が集まりますが、同時に「対医療連携」が深くかかわる点に注意が必要です。

医療職の業務効率化が目されている点に注意

病院団体側の要望では、「オンライン対応の継続」について「ICTの活用」を前提としています。ちなみ、2020年度の診療報酬改定では、退院時カンファレンス等での「リアルタイムでの画像を介したオンラインでの参加」が「やむを得ない場合」以外でも可能となりました。サ担会議への参加をはじめとするケアマネとのやり取りでも、同様の対応をベースとすることが想定されているわけです。

一方、モニタリングにおいても、利用者とケアマネの間のやり取りというより、「利用者情報」についての「ケアマネと医療側」の情報共有が前提となっていると考えた方がいいかもしれません。もちろん、利用者とケアマネの間の「電話やメールによるオンライン対応」も視野には入っているでしょう。しかし、それも「医療側にとって必要な情報」の共有がきちんと図られたうえで…という意図が多分に含まれているという見方が必要です。

さらに、(3)のテーマを絡めてみます。この課題については、入院時の情報連携だけでなく、入院中にも「ケアマネと医療機関側のやりとり」を暗に求めていると言えます。それによって、入院中から「退院のめど」についての認識を「ケアマネと医療機関」で共有し、ケアマネ側に在宅復帰に向けた早期の準備を促すという意図が読み取れます。

そして、(1)~(4)を通じて見えてくるのは、「入院前」「入院中」「退院時」「退院後」を1つの線で結んだ継続的な情報共有であり、その手段として「ICT」が絡むわけです。ケアマネとしては、「それならば『入院中』も報酬は発生するか」を問うことになるでしょう。当然、そこまでの議論も求めているはずです。

ICTを通じたオンラインによる診療や職種間の情報共有は、医療側にとって「医療職の業務効率化」という目的の上に立った改革です。介護保険においても、その医療側の目的達成の視点から「ICT化」の議論が進んでいる──そうした認識も必要になりそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。