生活援助の頻回訪問対応の危うさ

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現在開かれている介護給付費分科会の議論の中から、2018年度の報酬・基準改定との絡みで気になる点を取り上げます。具体的には、訪問介護の生活援助の頻回訪問にかかる対応です。一部委員からこのしくみの撤回を求めるなどの意見も出る中、保険者に対して行なった調査内容に注目してみたいと思います。

「家族の協力」による訪問回数の削減も

まずは、改めて2018年度改定の内容を確認しておきましょう。生活援助の頻回訪問については、ケアマネと保険者(市町村)に以下のような対応が求められています。

ケアマネに対しては、厚労省が定める回数以上(全国平均利用回数+2標準偏差)の生活援助を位置づけたケアプランを市町村に届け出なければなりません。また、市町村は、届出のなされたケアプランについて、地域ケア会議で検証を行なうこととされています。

さらに、地域ケア会議での検証を経て、必要に応じてサービス内容の再検討をケアマネにうながすことになりました。実際に、どのような「再検討」がうながされているのでしょうか。8月19日開催の介護給付費分科会で示された、保険者への調査による「地域ケア会議で検討された事例」に注目します。

この中で、別居する家族が「生活援助の一部に当たる行為」を行なったりすることで、「生活援助の回数が減った」という事例が上がっています。生活援助の回数見直しに際し、家族の協力をポイントにしているわけです。

それは家族の「真に主体的な意思」なのか?

確かに、家族側に「主体的な支援の意思」があれば、生活援助の一部を「家族に担ってもらう」ことも可能でしょう。そのメリットとして、地域ケア会議での事例では、「家族との関係の再構築」や「本人と家族とのつながりを強める」という視点での検討が行われています。これにより、本人の「孤立の予防」にも資するというビジョンも示されています。

ただし、注意しなければならない点が2つあります。1つは、家族の「本人を支援する」という意思が本当に主体的なものなのかということ。もう1つは、家族にもそれぞれの人生があり、それが「本人支援」のために損なわれるリスクはないのかという点です。

前者についていえば、「自分の親、配偶者なのだから、家族として支援するのは当たり前」という、いわゆる世間的な常識に縛られたうえでの「主体性」かも知れないという見立てが欠かせません。つまり、「やらなければならない」という負い目がいつしか「主体性」に置き換えられ、当の家族もそのことに気づいていないことがあるわけです。

こうした「負い目」と「主体性」が混同されたまま、周囲(専門職等)の「これでうまく行く(家族同士の絆も強まって万事丸くおさまる)」という期待感がのしかかってしまうと、当の家族にとっては「本心ではきつくなってきても、周囲に打ち明けられない」というプレッシャーがかかりがちです。

「家族の人生」は本当に尊重されているか

こうした懸念は、後者についても同様です。「家族が仕事に就いている」あるいは「子育てや学業などを兼ねている」という状況であったとします。これならば、「家族の負担に注意しなければならない」という認識は、専門職間でも比較的共有しやすいでしょう。

しかし、家族の人生というのは、上記のような分かりやすい状況ばかりではありません。たとえば、仕事等ではない活動(趣味やその他の社会活動など)や人づきあいとなった場合、「それも家族の大切な人生」という認識がともすると周囲におよばないこともあります。

中には、「それは親や配偶者の世話をすることもより大切なことか」という見方が(専門職の間にも)発生することもあります。人の社会性や尊厳にスポットを当てる社会福祉系の専門職はともかく、医師や行政担当者などの中には、「家族の気ままな人生のために貴重な介護保険財源を使っているわけではない」という見解を強調するシーンも見られます。

もちろん、家族の人生を尊重しつつ、「どこまでなら生活援助の一部を担ってもらえるか」を、(当の家族とのコミュケーションをしっかりとりながら)慎重に継続検討していくのであれば、「家族同士の絆」の再構築というメリットを引き出せるかもしれません。

問題は、地域ケア会議で特定の専門職の権威とその発言力が強まってしまうと、「家族だったらこれくらいして当たり前」的な空気に流されてしまう危険も常に生じやすいことです(実際、そうしたケースも耳にします)。

こうした状況を防ぐには、家族の尊厳をきちんと保障する「土台」が必要です。本コーナーでもたびたび介護者支援法等を求めていますが、こうした法的理念が抑えとしてあってこそ、地域ケア会議の(言い方は悪いですが)暴走を防ぐことになります。今の生活援助の見直しは、どこか「抑え」の利かないしくみの上に成り立っている懸念が拭えません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。