ケアマネ「基本報酬アップ」の行方

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8月19日開催の介護給付費分科会で、居宅介護支援にかかる改定の方向性が議論されました。介護事業経営の概況調査などでは、居宅介護支援の収支差率が依然としてマイナスとなるなど、運営の厳しさが浮き彫りとなっています。現場のケアマネにとって、次の改定は明るいものとなるのでしょうか。

基本報酬アップはすでに規定路線!?─しかし

本ニュースでも述べていますが、分科会委員からは基本報酬の引き上げを求める声が上がっています。注目したいのは、日本医師会など医療関係者からも、居宅介護支援の経営状況の懸念を指摘する声が出ていることです。

高齢患者にかかる早期の在宅復帰や在宅医療の拡充が欠かせない時代となる中で、医療機関にとってもケアマネへの依存度は急速に高まっています。地域の居宅介護支援がぜい弱になることは、地域医療の崩壊にもつながりかねないという危機感もうかがえます。

このように、介護のみならず医療側から報酬アップを求める流れは、今後の改定議論を通じてさらに強まると思われます。結果として、居宅介護支援の「基本報酬アップ」が既定路線となるのはほぼ間違いないでしょう。

ただし、注意したい点が2つあります。

特定事業所加算との「抱き合わせ」が有力か

1つは、厚労省側のバランス感覚です。具体的には、「基本報酬をアップするのなら、どこかでケアマネジメントの質を担保するしくみを導入する」という方向が強まることです。

もっとも、新たな指標等につながる「ケアマネジメント手法の標準化事業」などはまだ道半ば。となれば、現段階で「質の向上」策としている特定事業所加算の見直しがポイントとなりそうです。具体的には、「基本報酬+特定事業所加算」を抱き合わせての「引き上げ」といった方法が考えられます。

では、「特定事業所加算」をどのように見直すのでしょうか。居宅介護支援の経営危機や人材不足が大きく広がっている現状を考えれば、算定率の高いII・IIIの単位を引き上げるのがもっとも分かりやすいといえます。

ただし、厚労省としては、地域包括ケアシステムにかかるインセンティブを強化したいという思惑も強いはず。となれば、2018年度に新設された「上乗せ加算IV」の要件緩和と単位引き上げを中心とする可能性もあります。対医療連携の頻度などが問われる「IV」に着手することで、厚労省としては「医療側の納得も得やすい」メリットもあるからです。

こちらの手法が採用された場合、医療機関との距離感や重度者の受け入れノウハウによって、事業所間の格差が助長される懸念も生じかねません。それをカバーするだけの「基本報酬アップ」に踏み切れるのかどうか。このあたりがポイントとなりそうです。

介護保険外でも増えゆく業務範囲に注意を

もう1つの注意点は、介護保険の枠を超えてケアマネの役割が拡大する可能性です。仮に今以上の業務拡大となってくれば、結果的に、「基本報酬アップと業務の増大がセットになる」という形となります。

たとえば、昨年の介護保険部会の「制度の見直し意見」で、「インフォーマルサービスのケアプランへの反映の推進」が明記されました。インフォーマルサービスの範囲が問題ですが、仮に運営基準の改定で「今までケアマネが想定していなかった業務」などの義務づけが生じた場合、現場にとっては新たな実務の拡大などにつながりかねません。

また、2020年の社会福祉法改正により、制度の枠を超えた包括的な支援体制の強化が図られました。取り上げられているのが、「断らない相談」や「伴走型支援」です。この制度改正を、ケアマネ側の基準にどのように反映させるかもポイントとなりそうです。

さらに、近年大きな課題となっているのが、災害時における要介護高齢者などの個別避難計画の策定です。これは2013年の災害対策基本法の改正にもとづいた施策ですが、一部自治体ではケアマネに対して策定の委託契約を結んでいるケースがあります。そして一部報道によれば、この「委託」のしくみを国が全国展開させる方向であるとも言われます。

もちろん、介護保険外の包括的な支援体制や個別避難計画にかかる委託契約などについては、介護報酬とは別に費用があてられることになるでしょう。ただし、介護保険にかかる本体の基盤がしっかりしていなければ、「費用と負担」の関係で見た場合、ケアマネの労働環境を厳しくする恐れも出てきます。

つまり、こうした状況まで加味したうえで「基本報酬のアップ率が妥当かどうか」が問われてくるわけです。単に「基本報酬がこれだけ上がった」と言って一喜一憂するのではなく、ケアマネをめぐる業務環境がどのように変化していくのも見極める必要があります。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。