熱中症と新型コロナ、両リスクの中で

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今年の夏も、日本列島は猛暑にさらされています。特にお盆前後から各地で40℃に迫る気温となり、高齢者を中心に熱中症による死者も増えています。残暑シーズンも厳しい暑さが予想される中、引き続き利用者への熱中症の注意喚起を行なっていると思われます。新型コロナ感染の脅威もプラスされる中、ケアマネの役割を再確認しておきましょう。

厚労省が示した「マスク外し」推奨の広報

厚労省は、新型コロナ感染防止にかかる「新しい生活様式」下の「熱中症予防行動のポイント」をサイト内でまとめています。HP上から「熱中症予防行動」のリーフレットもダウンロードできます。すでに利用者に配布しているケアマネも多いと思いますが、改めて利用者への注意喚起を行ないたいものです。

新型コロナの感染防止との兼ね合いでいえば、「マスク着用」の問題があります。ご存知のとおり、マスクを着用すると心拍数や呼吸数、体感温度が上昇しがちです。そのため、高温・多湿下のマスク着用は熱中症のリスクを高める恐れがあります。身体に負担のかかりやすい要介護者であればなおさらです。

上記の厚労省HPでも、屋外で人同士の距離が十分に(少なくとも2メートル以上)確保できる場合には、「マスクを外す」ことを推奨しています。(マスクを着用する場合でも、周囲の人との距離が十分にとれる場所で、マスクを一時的に外して休憩するなどを求めています)

利用者の「衛生観」が大きく影響することも

問題なのは、重症化しやすい要介護者の場合、新型コロナへの感染を恐れるゆえに「(人との距離が十分にとれる場所でも)なかなかマスクを外したがらない」という人もいることです。家にいる場合でも、たとえば「同居家族がいて人同士の距離が近くなる」か否かにかかわらず、「マスクをすることが習慣となっている」というケースも見られます。

ここには、本人の「衛生観」も大きく影響しています。人の「衛生観」とは、「どうあることが自分の身を守ることにつながるのか」を自己決定する土台となるものです。もう少し踏み込めば、その人の「尊厳」にも直結していると言っていいでしょう。

ですから、仮にその方法が「客観的な衛生・健康管理という観点から正しくない」としても、それを一方的に指摘し修正をうながすだけでは、自主的な生活習慣の改善にはつながらないこともあります。厚労省のリーフレットを配って歩くだけでは、熱中症リスクはなかなか解消されないわけです。

となれば、ケアマネとして重要なのは、利用者の「自己決定」を普段からどのように尊重しているかという点にあります。「あなたのためにはならないから」という否定だけが先に立てば、人によっては自己の尊厳を否定された気になるでしょう。「自己決定」と「本人のため」という部分で、整合性をつけていくことが専門職としての役割となるわけです。

利用者の尊厳保持が「健康」に直結する時代

考えてみれば、新型コロナの感染拡大とともに、高齢者だけでなく多くの人々が「双方向のコミュニケーション」に対するさまざまな制限を受けてきました。人と人との物理的な距離感が制限されるのは仕方がないとしても、それによって「お互いの価値観(ここでは衛生観)」を確認しあうという機会が減れば、テレビやネットから得られる「一方的な情報」に影響される傾向が強まります。

そうした情報の中でも、多くの高齢者に「わが事」として突き刺さっていったのが、まさに「新型コロナの感染危険」を強調した情報であったといえます。来る日も来る日も、テレビ等の報道は「新型コロナがいかに危険か」を訴えていました。こうした状況の中で、高齢者の「衛生観」は大きく揺らいできたのは間違いありません。ここに熱中症予防の情報がもたらされても、新型コロナへの危機意識とのバランスのとり方が難しくなりがちです。

この点を考えたとき、熱中症と新型コロナの両リスクに対処するには、利用者の「自分は何を信じるべきなのか」という自己決定の根っこ(尊厳)にまできちんと寄り添うことが必要です。利用者にただ情報を与えるだけでなく、一緒に考えつつ「本人の自己決定(尊厳)」をいかに守るかが、健康維持に直結する時代となってきているわけです。

このように、ケアマネと利用者との「尊厳保持」をめぐるコミュニケーションの質は、利用者の「命の問題」に直結しつつあります。しかしながら、こうした点は介護報酬上ではなかなか評価されていません。新型コロナと熱中症の両リスクが「当たり前」となる時代に、従来のような「一方的な医療情報・指導」だけでは、利用者の「健康」は維持できないという見方が求められているといえます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。