AIプランの報酬反映、機は熟したか?

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介護給付費分科会の関係団体ヒアリングにおいて、全国介護事業者連盟が「AI活用にもとづくケアプラン作成を推進するための加算」を求めました。AIを活用したケアプラン作成については、いくつかの自治体でモデル事業が行われていますが、介護報酬上の「加算」に反映させる機は熟しているのでしょうか。

ケアプランへのAI活用をめぐる昨今の動き

ご存じのとおり、骨太の方針2020では、介護分野の生産性向上の一環として「ケアプランへのAI活用の推進」が明記されました。自治体側の取組みでいえば、たとえば愛知県豊橋市では、2018年からケアデザイン人工知能「CDI platform MAIA」を活用してのケアマネジメントがスタートしています。

さらに、AIやICTを活用したプラントフォームサービスを提供している株式会社ウェルモは、昨年12月にケアプラン作成支援AI「ケアプランアシスタント(β版)」の実証実験会を実施。ここでケアマネジメントの質の向上について一定の効果が確認できたとして、今年の秋から発売開始を予定しています。

このように、官民によるケアマネジメントへのAI導入の機運が高まるというタイミングで、冒頭の要請が行われたことになります。求めているのは補助金事業などではなく、介護報酬上のしくみへの反映です。仮にこれが実現された場合、すべての居宅介護支援事業所、そこに所属するすべてのケアマネに対して共通の「土台」を築かなければなりません。

つまり、単に「AI導入を報酬上で評価する」というだけでなく、実務研修のカリキュラムや指導・監査の体制なども「AI」仕様に備えていく必要があるわけです。そこまでのしくみ変更を行なうとなれば、ケアマネジメント過程のどの部分で、どのようなAI導入を評価するのかを整理することが必要でしょう。

実用化調査で示されている具体的な機能とは

ちなみに、上記で述べた「整理」に際して参考となるのが、2019年度の老人保健健康増進等事業によってまとめられた「AIを活用したケアプラン作成支援の実用化に向けた調査研究」(NTTデータ経営研究所)です。

この報告書では、AIが優位性を発揮できる3つの機能に対して、効果検証を行なっています。その3つとは、以下のとおりです。

(1)AIを活用した音声入力システム…スマホに入力した音声内容を介護業務ソフトの帳票に出力する機能(製品化済)

(2)AIを活用したケアプラン作成システム(その1)…「医療知識や事例集、第2表作成時の文章案」などを提示、その延長で「具体的な地域資源」も提案(福岡市、横浜市で実証)

(3)AIを活用したケアプラン作成システム(その2)…「自立支援に資するサービスの種別、およびレーダーチャート等によるADL改善や認知症状等の将来予測(これにより、利用者へのプラン説明・合意形成をアシスト)」を提示。(豊橋市や茨城県で実証)

この3つの機能を通じて、a.ケアマネの業務時間短縮や負担軽減にどれだけつながったか、b.ケアマネが新たな視点・観点をどれだけ獲得できたか、c.利用者のケアプランへの納得感・満足度がどれだけ高まったか──などの検証が行われています。

「AIありき」となってしまえば本末転倒に

研究報告では、検証内容ごとに一定の効果が認められるとともに、課題があることも明らかになっています。詳細については、公表されている報告書をご覧ください。

ここで強調したいのは、ひと口に「AI」と言っても、ケアマネジメントの多様な過程をサポートする製品があるということです。これらをひと括りにして、「とにかくAIさえ活用していれば加算の対象に」というのは大雑把すぎるでしょう。一つ間違えれば、「ケアマネ業務の改善」より「AI導入ありき」が目的となりかねません。これでは本末転倒です。

確かに、「介護の産業化」といった目的には沿うかもしれません。しかし、そのために介護保険の財源を投入するのは、社会保険の公共性に反する恐れも生じかねません。となれば、報酬上での評価を目的とした議論に際しては、AIのどんな機能をもって、どんな効果を期待するのかを絞り込むことが必要です。

たとえば、アセスメント情報を入力した後に、「第2表案が出力される」あるいは「課題分析に必要な(ケアマネが見落としているかもしれない)視点についてアドバイスを受ける」という機能に着目したとします。これならば、「ケアマネの気づき」を引き出すことによるケアマネジメントの質の向上という目的が明確になります。加算ならば、こうしたピンポイントの効果に付与されるべきでしょう。

こうした道筋整理の必要性を考えれば、今優先すべきなのは、「すべての現場がAI効果を体感できる」ための事業所経営の安定化、およびケアマネが「新たにAIを学ぶ」だけの余裕を持てる処遇改善のはず。そうした施策の順序を間違えないようにしたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。