職員の「働き方」を報酬でどう改革?

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介護給付費分科会は、関係団体からのヒアリングに入っています。8月3日は、訪問介護にかかる2つの業界団体によるプレゼンが行われました。その中から、日本ホームヘルパー協会(以下、ヘルパー協会)が提言した「休日加算」の設定を取り上げます。昨今の働き方改革に加え、新型コロナ影響下で必要性が高まっている報酬上の評価の一つといえます。

ヘルパー協会が求めている休日加算

ヘルパー協会が「休日加算」を求めている理由は以下のとおりです。まず、介護サービスにおいては、年末年始・土日等休日でも利用者のニーズは発生します。事業所がこれに応えるとしましょう。問題となるのは、登録型が多いヘルパーの場合、家庭や子育ての都合から土日祝日の「休み」の希望が増えることです。そのため、常勤職員が土日祝日に対応しなければならないケースも目立ちます。

訪問介護における常勤職員の採用が(他サービスと比べても)厳しいのは、各種採用データからも明らかです。結果として、労働基準法に定められた法定休日に出勤せざるをえない常勤職員も、一定数生じることになります。その場合は「割増賃金(3割5分以上の割増率)の支払い」が生じるわけですが、この割増分が事業所の持ち出しにならざるを得ません。この分をカバーするべく、「休日加算」の設定を求めたことになります。

ちなみに、診療報酬では、休日加算や時間外加算が設けられています。また、薬局においても、休日の対応実績などを要件とした地域支援体制加算などが設けられています。

ワークライフバランスを重視する職員多数

さて、こうした法定休日勤務にかかる報酬上の評価は、介護人材の確保にどこまで影響するでしょうか。この点について、6月25日の介護給費分科会で提示されたデータに注目してみましょう。そのデータとは、現場従事者に対して「勤務継続にあたり重要と思うもの」を尋ねた調査です。

それによれば、「仕事へのやりがいがあること」や「能力や業務内容を反映した給与体系」が上位に来ています。このあたりは、ある程度想定される回答と言えるでしょう。

着目したいのは、「休暇取得のしやすさ」や「仕事と家庭との両立が可能であること」も高い比率を示していることです。この2つについては、「福利厚生の充実」や「上司や同僚との良好な人間関係」、あるいは「資格取得や研修などが制度等として充実していること」という回答を上回っています。

ちなみにこの調査は、勤続10年以上の介護福祉士を対象としたものです。そのため、回答者のほとんどが30代以降で、結婚していたり子どもがいるというケースも多いことが想定されます。そうした人々によって、ワークライフバランスの充実が勤務継続において重要度が高くなるのも当然でしょう。

そうなれば、職員に「休日出勤などを求める」というハードルは高くなります。事業所としては、休日・時間外手当を高く設定していても、人材不足が進む中では特定の職員に負担が集中することになりかねません。

夜間・早朝の訪問加算を機能させるためにも

現状で、訪問介護には夜間・早朝加算があります。利用者のライフサイクルによっては不可欠となるのが夜間・早朝訪問です。利用者の生活の質を維持するうえでは重要ですが、ヘルパーには負担がかかりやすく、日頃からの心身の状態を整えることが重要となります。

仮に「職員自身の家庭状況」がぎくしゃくしていれば、そこに負担のかかりやすい夜間・早朝訪問が加わることで、集中力の低下などから大きな事故につながりかねません。人材不足で特定の職員ばかりがかかわらざるを得ないとなれば、リスクはさらに高まります。

これを防ぐには、法定休日訪問にかかる加算を設定して「手当の上乗せ」を図り、法定休日外と夜間・早朝で担当者が分散できるようにすることが必要です。加算によって利用者の負担も増えるわけで、「本当に不可欠なケース」だけに絞りやすくもなるでしょう。(もちろん、経済的に厳しいがどうしても必要不可欠というケースを想定して、区分支給限度基準額から外すなどの議論も同時に必要です)

以上の点から、法定休日外での訪問の評価から拡充することが、夜間・早朝訪問を機能させるための「土台」にもなるわけです。

今は新型コロナの感染拡大により、今後も保育園の利用制限や学校の休校が発生する可能性が生じるなど、登録ヘルパーや非常勤職員の家庭状況にさまざまな課題が蓄積しやすくなっています。そのしわ寄せが常勤職員等の働き方に影響をおよぼしかねないことを想定すれば、せめて法定休日をしっかり休める方向で誘導する報酬設定が求められます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。