デイの新加算算定の低さ、どう見る?

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 介護給付費分科会がサービス別の議論に入っています。今回は、受給者数が特に多い通所介護(地域密着型含む)に注目しましょう。2018年度の改定で、自立支援・重度化防止に向けた加算等が一気に増やされたサービスの一つです。その算定状況などをにらみつつ、今何を重視すべきかにスポットを当てます。

2018年度改定で誕生した加算の算定状況

2018年度改定の検証調査を見ても明らかなように、新設された加算の算定状況は決して芳しいとは言えません。

たとえば、国が力を入れようとしているアウトカム評価として注目されたADL維持等加算。誕生から約1年たった2019年3月提供分での算定率(事業所ベース)は、事業所規模(地域密着型か否か)にかかわらず0.0~0.2%にとどまっています。

加算創設の初年度であることや、算定にかかる実務が複雑であること、単価が低いことなどを差し引いても、算定率の低さが際立ちます。国としては、「まずは試験的な導入から」という思惑があるのでしょうが、それにしても「現場の算定意欲」との間で大きな乖離があることは否めません。

それ以上に問題なのは、やはり2018年度改定で導入された生活機能向上連携加算と栄養スクリーニング加算でしょう。特に地域密着型の場合、前者について「個別機能訓練加算あり」のケースでも算定率は1.1%。後者については、わずか0.4%となっています。

焦点となるのはリハ系指標導入の「道筋」

両者の算定率の低さは、ADL維持等加算の算定率の低さとは別の意味で、施策立案側にとってショックが大きいはずです。

ADL維持等加算の場合、国が目指すアウトカム評価において、今後ゴールラインを明確にしていくうえでの「下絵」と位置づけられるかもしれません。まずは描いてみて、現場の反応を見つつ修正を図る──これは加算の設立当初から想定されていたと考えられます。

焦点は、算定実務の軸となるバーセル・インデックスの活用です。この指標は医療やリハビリの現場で根づく業界文化の一つであり、これが通所介護に代表される介護系の現場に根づかせることを前提としたうえで、先の「下絵」が描かれていると位置づけられます。

この「根づかせ」のために何が必要かといえば、ポイントは2つあります。(1)リハビリ系職種との連携を日常的なものとする中で、その思考法を少しずつ介護系に浸透させていくこと。(2)リハビリ系が用いている指標を客観的な「質の評価」に結びつけるうえで、その前段階となるリスク把握を日常業務の中に浸透させなければならないことです。

生活機能向上連携加算で目指されているテーマは(1)に該当します。一方、栄養スクリーニング加算は(2)の実践といえます。(2)は「栄養」に限定されていますが、ポイントは「スクリーニングしたうえで改善を図る」という流れを作り出すことです。この流れができれば、今後アウトカム評価を拡大するうえで、実務上のベースが築けるわけです。

これから先、問われるのは利用者の「納得」

ADL維持等加算は、まだ試行錯誤中のゴールライン。だとしても、そこに至る道筋だけは固めておく──これが上記の(1)、(2)であったはず。ところが、その「道筋」の整備でも「つまづいてしまった」という事実が、今回の算定状況で示されたことになります。

加えて、2018年度改定から2年目以降においては、新型コロナの感染拡大によって個別機能訓練さえもおぼつかない状況が続いています。利用者が安心して機能向上に取り組むためには、しっかりとした感染防止策が必要です。現場は、そのための環境整備に取組むことが最優先課題となっています。

この感染防止に向けた取り組みを基本報酬等できちんと支えなければ、いつまでたっても「次のステップ」に進むことは困難でしょう。もちろん、施策立案側もその点は理解しているはずです。実際、近年の収支悪化を課題に乗せるなど、基本報酬のアップをすでに視野に入れていることがうかがえます。

しかし、必要なことはそれだけでしょうか。基本報酬が上がれば、利用者負担も増えます。感染リスクを恐れつつサービスを利用している状況で、そこに負担増が加わるとなれば、「何のために通所介護を利用するのか」という納得が必要です。「それが自立支援・重度化防止である」と言われても、たとえば生活機能向上連携加算やADL維持等加算への利用者の理解は追いついているのでしょうか。

この点を考えたとき、必要なのは「利用者目線での議論」に時間をかけることが最重要です。たとえば、事業者ヒアリングだけでなく、(感染防止のためにオンラインを活用しつつ)利用者ヒアリングの機会を持つことです。通過儀礼となる可能性もあるかもしれませんが、少なくとも議論の過程で「利用者参加」の風土を根づかせることが、ウィズコロナ時代の介護保険のあり方ではないでしょうか。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。