ケアマネ負担軽減策の「本筋」

f:id:testcaremane:20210708155724j:plain

政府の規制改革推進会議が、7月2日に「規制改革推進に関する答申」を行ないました。その介護分野の改革案の中に、ICT活用によるケアマネの業務負担軽減が示されています。具体的にどのような改革となるのでしょうか。厚労省の介護給付費分科会の議論などともリンクさせながらチェックしてみましょう。

規制改革答申のキーワードは「デジタル化」

まず、今回の規制改革推進会議について確認しておきます。2019年10月に常設機関へと格上げされた第1回の会合では、ICT化やデータ活用などの「デジタル化」をキーワードにあげています。このキーワードに沿った規制緩和を進めることで、経済成長を成し遂げていくというのが今会議の目的です。

この点を頭に入れた場合、単純にモニタリングやサ担会議の簡素化を目指すのではなく、あくまで介護分野全体の「ICT化」という改革の一つであることに注意が必要です(事実、新型コロナ下の遠隔対応などは重視しつつも、柔軟な取り扱い通知にあった「電話によるモニタリング」の文言は含まれていません)。さらに、ここでICT化を進めることは、医療分野などとの密接なつながりも浮かんできます。

たとえば、6月25日に開催された介護給付費分科会では、2020年度の診療報酬改定における「業務の効率化に資するICTの利活用の推進」のしくみが示されています。たとえば、退院時共同指導料にかかるカンファレンスの開催について、ICT活用による会議の開催要件が緩和されたことなどです。

これまでの介護報酬改定が、常に診療報酬の動向とリンクしてきたことは言うまでもありません。とはいえ、介護報酬側の議論の初期段階から「診療側のICTの利活用」が関連事例として示されたことは、それだけ対医療連携を意識した中での(介護側の)ICTによる業務効率化が視野に入っているわけです。

今改革、実は医療とのICT連携が視野に?

では、利用者とのやり取りに関してはどうなるのでしょうか。利用者や家族がICTで会議に参加するとなれば、少なくともPCやスマホによる通信環境の設定が必要です。この整備を誰がどうやって行なうのかという「社会インフラ」の議論に踏み込まなければなりません。しかし、今回の答申では、公共機関や金融、教育等の分野におけるデジタル化には触れていますが、一般家庭でのICT普及に向けた具体策までは触れられていません。

こうした点を考えると、先のケアマネのモニタリングやサ担会議にかかる改革も、どちらかと言えば医療側とのICT連携の延長にあると考えられます。仮にサ担会議でICTを活用するとして、入口として考えられるのは「医師のテレビ会議による参加」です。これは、リハビリ系サービスにおけるリハビリ会議の開催要件ですでに定められています。

この「ICTによる医師参加」の要件をサ担会議にも適用する──これを第一段階とします。そのためには医師との間で、早期からICTによる連携環境が必要となります。退院・退所加算にかかる院内カンファレンスの参加について、医療機関側のICTシステムにアクセスしつつケアマネ側にテレビ会議等による参加でもOKとする─そうした要件緩和が図られる可能性もあるでしょう。さらには、入院時情報連携加算でもICTによる情報提供という要件緩和が行われるかもしれません。

介護DBとの連結なども絡んでいく可能性

もう一つ頭に入れておきたいのは、ICT活用を「テレビ会議やビデオチャット」といった遠隔面談にとどめず、データの利活用という施策方針に絡めていくことです。

今回の答申で、ケアマネの業務負担軽減と並列させているのが、(介護現場への)ICTの普及をうながすため、「ICT導入支援事業について、引き続き推進する」という内容です。ICT導入支援については、第二次補正予算で補助額や補助範囲の拡充が行われました。この拡充前のICT導入支援事業は、地域医療介護総合確保基金を活用した施策です。

以前も述べましたが、この事業の要件として「CHASEによる情報収集に対応すること」という項目があります。つまり、新たな介護DBとの連結を要件とすることで、将来的にDBを活用したエビデンスにもとづく介護サービスの実現を視野に入れているわけです。

さらに上記の要件では、「居宅介護支援事業所との情報連携に際して標準仕様を活用すること」も含まれています。DBとの連結、ケアマネとの情報連携という前提のもとでのICT導入となれば、自立支援に資するサービスのあり方と絡めた改革となります。

いずれにしても、医療や経済にかかる大きな改革の渦の中で、今回の規制緩和が発案されてきているという意識が必要です。この渦に、ケアマネとして主体的にどうかかわっていくのかという足元をしっかり定めないと、ただ「巻き込まれる」だけになりかねません。

 

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。