「主観的幸福感」は指標となるか?

2021年度からの第8期介護保険事業計画に向けて、介護サービス資源等のあり方を検討する動きが慌ただしくなってきました。昨年の介護保険部会の取りまとめにもとづく、「要介護者等に対するリハビリテーションサービス提供体制に関する検討会」(以下、検討会)もその一つです。検討課題の一つがリハビリの目標にかかる指標です。

検討会の議論がサービス現場におよぼす影響

今検討会は、市町村および都道府県が作成する介護保険事業(支援)計画における目標設定などを目指したものです。とはいえ、ここで定められた方針が、2021年度の介護報酬改定の議論にも影響することは間違いないでしょう。つまり、いずれは現場のサービスのあり方にもかかわってくるということです。

また、ここで議論されている指標は、「リハビリ系サービス(老健や介護医療院も含む)を対象としたものですが、巡りめぐって他のサービスにも影響してくる可能性も頭に入れておくべきでしょう。なぜなら、視野を広げれば、今回のテーマは要介護者等の自立支援・重度化防止を目指すものだからです。

たとえば、今回の検討会では指標の一つとして「アウトカム指標」も議論の対象となっています。介護給付サービスにおけるアウトカムでの評価といえば、2018年度改定で誕生した通所介護のADL維持等加算が先鞭をつけた形となっています。そして、この加算で指標としているのがバーセル・インデックス(BI)です。このBIの活用はFIM(機能的自立度評価法)とともに、リハビリ系サービス現場では一般的に活用されています。

気になる「アウトカム指標」の議論の行方

リハビリ系以外のサービスである「通所介護」の加算要件に、「リハビリ系サービスで多用されている指標」が用いられた──これは、大きな前例となるはずです。何が言いたいかといえば、この検討会でリハビリにかかるアウトカム指標の方向性が示されたとして、いずれは他の介護サービスの「自立支援・重度化防止」にかかる評価に導入される流れとなる可能性が高いということです。

では、今回議論されているアウトカム指標の方向性はどうなっているのでしょうか。まず、「要介護認定率の変化」については、ニュースでも取り上げているとおり、おおむね「指標としては適切でない」という流れになっています。そのうえで、BI、FIMによるADLの変化度や、IADLに関してFAI(日常生活上の応用的な活動や社会生活における活動を評価する指標)の活用などがあがっています。

注目したいのは、主観的幸福感・健康感も指標として例示されたことです。これは、その名のとおり、「その人がどの程度幸福や健康を実感しているか」という指標です。あくまで「主観」であるために、「どのように測定するか」「どのように評価するか」が大きな課題ですが、すでに内閣府などでは、国の政策に活かすための試案づくりが進んでいます。

制度スタートから20年でたどりついた地点

この主観的幸福感・健康感の高低に左右されるのが、いわゆるQOL(生活の質)です。ケアマネジメントでも、「利用者のQOL向上を目指すために何が必要か」という考え方を軸にすえているケアマネも多いと思います(ADL、IADLは「そのための手段の一つに過ぎない」という考え方もあるでしょう)。

このQOLをどのように測定するか、そして、それは客観的な指標となりうるのかという課題に向き合うことは、そのまま現場のケアマネが歩んできた道筋とも言えます。その意味で、主観的幸福感・健康感が指標候補として上がってきたことは、これまでのケアマネの取組みを評価するうえでも、重要なターニングポイントになる期待が膨らみます。

問題は、主観的幸福感・健康感は、一人ひとりの人生観や価値観によっても異なるわけで、データ化が非常に難しいことです。拙速な指標化は「人の価値観」を一つの枠に押し込めてしまう危険もあり、「それならば指標化しない方がいい」となるかもしれません。検討会でも、主観的幸福感・健康感などは「今後の(他の指標にかかる)データ収集と会わせて」、あくまで例示にとどめるとしています。

もっとも、介護保険のスタート当初から「高齢者の幸福感・健康感に資するためには何が必要か」をもっとも大切な課題と位置づけていれば、今頃はもっと違った結論が出ていたのではないでしょうか。制度のスタートから20年、当事者の思い(そして、それを受け取る現場の従事者の思い)が常に脇に寄せられがちだったことが、今の状況につながっていると思われてなりません。20年の時を経て、今度こそ「本当のスタートライン」に立てるのかどうかをしっかり見極めたいものです。

コメント[9

コメントを見るには...

このページの先頭へ