家族のレスパイトにこんな施策は?

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2021年度の介護報酬改定に向けては、引き続き「地域包括ケアシステムの推進」が主テーマとして掲げられています。ポイントは、在宅療養の限界点をいかに上げていくかという点です。当然、増加する「在宅での看取り」への対応も問われます。厳しい現場環境の中で、今後求められる施策を考えます。

在宅看取りが増える中では家族の負担も増大

今年4月に総務省が発表した2019年の人口推計によれば、この1年での死亡者数は約138万人で、戦後最高を記録しています。厚労省が介護給付費分科会に提示した将来推計では、さらに伸び続けてピークとなる2040年には170万人近くになるとしています。

一方で、病院での死亡割合は2006年前後から減り続け、その分の「受け皿」が老人ホーム(特養なども含む)へと移行しています。ちなみに、「自宅」が死亡場所となる割合は横ばいですが、この状況が続いたとしても、「自宅で亡くなる人数」自体は、死亡者数の増加とともに増えていくことになります。

このように在宅での看取りケースもますます増えていく中で、問題は2つあります。1つは、その「在宅での看取り」を支える医療・介護の人材が、労働力人口の減少によってますます先細りしていくこと。もう1つは、65歳以上の単独世帯や夫婦のみの世帯が増える中で、看取りまでの間の家族の負担がこれまで以上に大きくなっていくことです。

たとえば、逆ショートステイ的な発想も

ここでは、後者の「(高齢化・減少化する)家族の負担」に視点を当てます。「在宅での看取り」では「家族のレスパイト」にも配慮しなければなりません。大切な人との「別れ」が近づけば、家族はつい疲れをおして無理をしがちです。それが心身の不調につながれば、よりよい看取りの実現は難しくなります。

ここ10年ほどの間の介護報酬の改定議論を見ると、在宅療養の限界点を探るという動きの一方で、「家族のレスパイト」についての施策の進ちょくは鈍いという印象があります。介護保険の軸足はどうしても「本人支援」に傾きがちで、家族のレスパイトに重点を置いた給付サービスは決して多くありません。

この点については、やはり「家族介護者(ケアラー)支援」を目的とした法整備が進んでいないことも大きいでしょう。もし「在宅療養の限界点を高める」、そしてその先にある「在宅での看取り」に力を入れるのであれば、その下支えとして、介護者支援法の整備を進めることが国の責務として欠かせません。

この法整備推進を基本としたうえで、今からでも整えていきたい施策があります。現状で家族のレスパイトにかかる資源というと、短期入所系サービス(居住系の短期利用や小規模多機能型の「泊まり」なども含む)が中心です。これは、あくまで「利用者本人」が「一時的に場所を移す」ものです。

しかし、重度の療養が必要となり、「看取り」も視野に入ってくるとなれば、一時的な環境変化も大きなダメージとなりかねません。そこで、発想を転換し「家族側に『家を離れて』の休息の場を提供する」という逆ショートステイ的なサービスも求められそうです。

財源確保のためにも介護者支援法の整備を

たとえば、新型コロナの影響で街中のホテルなどは利用者が減っています。この空き室を、数日間だけ家族の休息に使ってもらいます。利用料を介護給付から出すのが難しければ、国が「レスパイト用クーポン」などを発行するという方法もあるでしょう。

問題は、もちろん「本人をどうするか」という点です。これについては、たとえば定期巡回・随時対応型で「在宅での長時間滞在」というスタイルを設けるというしくみはどうでしょうか。具体的には、看護師とヘルパーがペアになって、家族の「外泊」の間に交代制で利用者宅に滞在しながら、本人の在宅療養を(ヘルパーは、その後の看取りに向けた環境整備も)担うというわけです。

もちろん、どれだけの報酬を設定すれば「長時間滞在」に見合うのか、家族への定期連絡(動画などを活用する方法もあり)はどうするか、あるいは家族不在時のトラブルにかかる補償などをどう整えるかなど、さまざまな課題はあるでしょう。しかし、一つの「サービスの形」として議論する価値はあります。

実際、本人宅ではないものの、最寄りの空き家屋(本人がなじみやすい家庭的環境)を活用し、ヘルパーや看護師が滞在する「看取りのための家」のような取組みを行なう自主事業が見られます。こうしたしくみを発展させつつ、介護給付や地域支援事業で対応する方法もあるのではないでしょうか。

もし国が本腰で「在宅療養の限界点を上げつつ、在宅での看取りを推進する」というのであれば、大胆な発想転換も必要です。当然財源確保は必要ですが、そのためにも介護者支援法などの立法措置が求められるわけです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。