見守り機器をめぐる次の改定は?

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介護給付費分科会で、2018年度介護報酬改定の効果検証等の調査結果(案)が示されています。今回は、その中から「介護ロボットの効果実証」について取り上げましょう。中心となるのは「見守り機器」です。次の改定に向けた影響について見通してみましょう。

2018年度の夜勤職員配置加算の要件緩和策

介護業務の効率化等に向けて、国は介護ロボットの導入にかかる施策や予算措置などを積極的に打ち出しています。2018年度の介護報酬改定では、見守り機器の活用による加算上の要件緩和も行なわれました。

具体的には、特養ホームおよび短期入所生活介護において、入所者の15%以上に見守り機器を整備していることを条件に以下の緩和策を打ち出しました。それは、「夜勤職員配置加算」における夜勤職員の増員が、「プラス1人」から「プラス0.9人」となるものです。

定員数の多い大規模施設でないと、大きな恩恵とは言えないかもしれません。しかし、「小さく生んで大きく広げる」という施策パターンが多い中では、あくまで第一ステップと見た方がいいでしょう。つまり、次の改定で要件緩和等の対象範囲が広がる可能性があるわけです。そのための検討材料となるのが、今回の調査結果と位置づけられます。

見守り機器があっても届出しない理由とは?

調査対象は、介護保険4施設のほか、居住系・短期入所系サービスで、母数は「何らかの介護ロボット(見守り機器以外も含む)を導入していると把握されたケース」を設定しています。この絞り込みだけでも、約8%となってしまうので、あくまで導入事例の中での傾向と受け取ることが必要でしょう。

上記のような母数の性格上、「見守り機器」の導入割合は73.5%とかなり高率です。機器のタイプは、「圧力センサーを使ったもの」(センサータイプ)が約半分にのぼり、「心拍や呼吸等の生体情報を活用したもの」(バイタルタイプ)は3割台にとどまっています。

問題は、先の夜勤職員配置加算における「見守り機器の導入にかかる届出率」です。調査によれば、届出割合は7.1%。初年度の5.8%より若干伸びてはいますが、見守り機器の導入割合と比較すると低さが目立ちます。届出していない理由にかかる自由記述では、「(導入割合15%以上について)多額の費用がかかるため、限られた施設しか対象にならないのでは」という意見が見られるなど、導入コストがネックになっている状況が浮かびます。

この調査を見る限りでは、介護報酬で導入へのインセンティブを図るのは限界があるかもしれません。仮に「導入を条件に大幅な加算の上乗せを行なう」とすれば、どうしても「導入そのもの」が目的になってしまいがちです。国民の負担する保険料を財源した社会保険制度で、「特定の設備」への費用負担を増やすとなれば、その効果を誰もが分かるように明示しなければ理解は得られないでしょう。

従事者のストレス減も示されてはいるが…

そうした課題に対し、今回の調査では「(見守り機器を)導入したことによる効果」について、現場での実地調査を行なっています。

たとえば、同じ特養の中で、見守り機器を「導入したフロア」と「未導入のフロア」を比較したタイムスタディ調査があります。それによれば、前者で「直接介護」が約77分、「巡回・移動」が約14分減少しています。

また、見守り機器導入前後での職員の「心理的ストレス反応」を測定したところ、ストレスが「最も弱い層(32点以上を「もっとも高い」とした場合の0~7点の職員の割合)」が2倍以上に増加することが分かりました。

あくまで特定の実地調査なので、現場ごとのさまざまな環境要因によって変わってくることもあるでしょう。重要なのは、こうした調査結果が示されたことにあります。

ピンとくるのは、処遇改善加算の職場環境要件ではないでしょうか。実際、今回の調査では「加算取得のプロセスで介護ロボットを活用している」というケースを尋ねた項目があります。それによれば、処遇改善加算が53%と飛びぬけて高くなっています。

たとえば、処遇改善加算の中で、「見守り機器導入」を要件とした新区分を設けるという改定案が出てくるかもしれません。ただし、導入コストがかけられるか否かで、処遇に格差が生じるとなれば本末転倒です。ここで、「導入コストにかかる交付金」等を使いやすくするしくみなどをセットで提示できないと、現場の理解を得ることは難しいでしょう。

いずれにしても、「機器導入ありき」になっていないかという議論は最後まで付きまといそうです。重要なのは、機器導入の有無にかかわらず、現場職員のストレス等の低減を図ることにあるはず。この目的と手段が逆転すれば、誰のための改定かが分かりにくくなります。特に新型コロナ対応で現場負担が増す中、考え方の道筋を誤らないことが肝要です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。