サービス再開支援への交付金の考え方

新型コロナ感染にかかる対策を中心とした第二次補正予算案では、全介護従事者への支給を予定した「慰労金」に注目が集まっています。一方、ケアマネとしてもう一つ関心の対象となるのが、利用者の「サービス再開」に向けた支援への交付メニューでしょう。具体化に向けた期待とともに課題を考えます。

サービス再開支援への交付金の考え方

サービス再開に際しての実務負担に交付?

二次補正予算案で設定されている緊急包括支援交付金(介護分)については、予算成立前のため、「慰労金」の金額などを除いて多くの具体的なスキーム(構想)はまだ固まっていません。先の「サービス再開支援」にかかる交付についても同様です。ただし、厚労省の担当者によれば、「できるだけ(手続き等の)煩雑化は避けたい」としています。

現在分かっている範囲内でのしくみを整理しましょう。たとえば、感染拡大の影響による通所系事業所などのサービス停止や訪問によるサービス等への切り替え、利用者側の自主的な利用休止などが続いていたとします。ここから(緊急事態宣言の解除等にともない)以前のサービス利用に戻すとして、再アセスメントを行なったり、改めてサービス調整を行なうなどの実務も発生するでしょう。

この実務上の手間に対して、費用面の援助を行なうわけです。担当ケアマネだけでなく、利用者を再び受け入れる側のサービス事業所も交付の対象とされています。

サービス再開に向けたケアマネの負担とは?

ところで、サービスの利用再開となった場合に、ケアマネとしては具体的にどのような点に配慮が必要でしょうか。考えられるポイントをいくつかあげてみましょう。

1)サービス休止等の間に、利用者や家族の生活習慣がどう変わっているか、それによって心身の状態に変化は生じていないか。

2)介護サービス利用のみならず、通院控えや服薬上の不具合などが生じていないか、それによって持病等の悪化が認められてないか。

3)生活習慣や心身の状況に変化が生じている場合、意欲低下などから「サービス利用の再開は可能だが、機能訓練等に前向きになれない」といった意向変化が生じていないか。

4)新型コロナ感染の影響による家族の収入減などにより、「(利用料負担の問題などから)サービスの利用回数を減らしたい」などの意向が出ていないか。特に短期入所系の利用を控えるなどの意向が想定され、そうなった場合に家族の介護負担の増加が懸念されないか。

この他にも、注意したいポイントはあると思われます。場合によっては、サービス休止等以前のケアプランから大幅な見直しが必要になることもあるでしょう。いわば、初期加算や退院・退所加算の要件に近い実務が発生することも考えられるわけです。

制度設計に際して不公平感が生じる可能性も

もっとも、こうした実務は「サービス再開によっていきなり発生する」ものではありません。休止等の間でも、継続的なモニタリングを通じながら、「サービス再開後」の支援のあり方について、丹念に予測・想定を積み重ねているケアマネも多いでしょう。そうなると、評価されるべきは「再開時のサービスへのつなぎ」だけにとどまりません。つまり、「(新型コロナ感染という)環境変化の中で、継続的なケアマネジメントにかかる負担が一定期間生じている」ことを前提にしたうえでの評価が重要になってくるわけです。

難しくなるのは、今回の交付金によって「どこからどこまで」を支援対象とするのかという点です。仮に通所系サービス等の利用に変化がなかったとしても、さまざまな事情(先述した通院控えや家族の状況による生活の変化など)から「継続的なケアマネジメントにかかる実務負担」は増えている可能性もあります。また、通所系サービス利用に変化はないが、短期入所系の利用を控えていたという場合はどうなるかという課題もあるでしょう。

もちろん緊急の交付金ですから、「通所系サービス等の利用再開」といったケースに限定される可能性は高いかもしれません(厚労省通知vol.842のように、給付管理の複雑化に焦点を当てる場合もあるでしょう)。しかし、先に述べたように「継続的なケアマネジメント」のあり方という観点からすると、同じ負担増でも交付金が適用される・されないといった不公平感が生じかねないわけです。

この点を考えれば、制度設計は極めて難しくなる可能性があります。言い換えれば、どのような制度設計をするにせよ、次の介護報酬改定に向けて「新型コロナ感染にかかるケアマネジメントを適正に評価する」という議論を同時に進めることが欠かせません。「交付金の1メニュー」という以上に、実はケアマネ評価上の大きなターニングポイントになるという点を見落としてはならないでしょう。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。