ようやく実現へ。全従事者対象の給付

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新型コロナウイルスの感染症対策を中心とした、令和2年度補正予算案が閣議決定されました。介護に関する項目として注目されるのが、緊急包括支援交付金の上積みによる全従事者への給付金(慰労金)です。また、ケアマネ等に対する「サービス再開」にかかる支援(アセスメント等)についても、新たな交付対象として設定されています。

第一ステップとしては評価すべき施策だが…

職員への慰労金については、(1)感染症が発生あるいは濃厚接触者に対応した施設・事業所の職員に20万円、(2)(1)以外の施設・事業所に勤務して利用者と接する職員に5万円となっています。(1)と(2)で金額面の差はあるものの、全サービスの全職種を対象とした給付が実現することになります。

現任者に対する幅広い給付で、今の状況にかかる現場負担に応えることが、社会を支える介護事業の継続性を担保するうえではまず重要です。これにより、利用者の重度化を阻止することが、長い目で見た場合の医療崩壊・生活崩壊を防ぐことにつながります。いわば、第一ステップがクリアされたわけで、その点では評価されるべき施策でしょう。

これによって現任者の現場離脱を最小限に食い止めたうえで、今後は第二ステップとして介護報酬の引き上げにかかることが重要になります。たとえるなら、第一ステップが建築上の「基礎工事」、第二ステップで新型コロナに負けない「頑丈な家づくり」を実現するといった工程がイメージできるでしょう。

第二ステップまでの「時間」が問題

問題は、「家づくり」にあたる介護報酬の引き上げが通常通り2021年4月となった場合、期間が空くことを考えれば、1回の「基礎工事」で足りるのかという点です。頭に入れるべきは「時間との戦い」です。

たとえば、介護報酬の引き上げで新規の従事者雇用のめどが立ったとして、それまで現任者の頑張りがもたなければ、必要な技能・知識の伝達ができなくなります。今年後半の秋・冬には新型コロナの大きな第二波の到来も懸念されています。そこで持ちこたえられるかどうかを想定すれば、「期中改定による報酬引き上げの前倒し」、あるいは「今回の慰労金の複数回支給」が必要になるでしょう。

今予算案では、介護現場に対する感染防止等の取組みをサポートする事業も設けられています。具体的には、感染防止対策のための相談支援や研修の実施、あるいは職員のためのメンタルヘルス支援などです。

こうした事業も必要ではあるものの、先の給付金による「基礎工事」が固まっていてこそ機能するものです。「基礎工事」とのタイミングが合わずに機能が中途半端になれば、厳しい財政状況の中から億単位の予算をかけた意味が薄れてしまいます。

再就職準備金が「つなぎ」となる?

気になるのは、今予算案の中で「再就職準備金の拡充」を打ち出している点です。これは、即戦力として期待される「離職した介護職員」の再就職をうながすための施策ですが、この貸付枠(2年間従事すれば返済免除)が20万円から40万円に増額されています。

何が気になるかというと、これが先の「報酬アップの前倒し」や「複数回の給付金(慰労金)」の代替えとして位置づけてられていないかという点です。要するに、(1)第一ステップの慰労金から、(2)第二ステップの介護報酬引き上げの間の「つなぎ」という機能です。となれば、先に述べた「基礎工事」はそこそこに、この「つなぎ」をもってサービスの継続性を図るという施策方針が浮かびます。

もちろん、施策の考え方としては「線」でつながっています。現任者が自宅待機などになった場合の補充要員の確保という狙いもあるでしょう。しかし、この施策でどれだけの再就職が期待できるのかといえば、(他業界の景気後退が甚大になれば再就職意欲は高まるという見通しもあるのでしょうが)はっきり言って確実性に乏しいといえます。それよりも、今ぎりぎりで離脱せずに頑張る現任者に、上乗せ給付を行なう方が筋は通りそうです。

いずれにしても、今回の慰労金(名称の問題ですが、介護施策に「家族慰労金」というものがある中で、専門職の負担を評価するのに「慰労金」という言い方はやや違和感があります)は、ようやくたどり着いた「入口」に過ぎません。ここから先の第二ステップをしっかり位置づけてこそ、今回の施策が活きるという点を見落とさないことが重要です。

なお、ケアマネにとっては、「サービス再開支援」にかかる新たな交付メニューも気になるところでしょう。次回は、この施策についてさらに掘り下げたいと思います。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。