介護現場への追加施策に必要なのは?

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新型コロナ感染症対策の一環として、政府は今月中にも二次補正予算の策定を進めようとしています。焦点の一つが、介護・医療現場で働く人々への特別手当などですが、具体的にどのような方法が考えられるでしょうか。さまざまなリスクが長期化する中、補正予算以降の施策も絡めつつ展望します。

追加的な施策に踏み込む前に考えるべきこと

まず、追加的な施策に踏み込む前に、施策者側に考えてもらいたいことがあります。

それは、既存の補償などをきちんと機能させることです。具体的には、自宅待機などを余儀なくされた職員への休業手当の支給(それにともなう雇用調整助成金の支給)、職員が新型コロナに感染した場合の労災保険の適用や傷病手当金の支給など──これらのセーフティネットが現場に行き届かなければ、上乗せ施策も十分な効果は上がらないでしょう。

実際、既存制度における支給などが行き渡らなかったり、事業者から従事者への情報提供などが不十分というケースも散見されます。

これら既存施策を機能させるには、下記で述べる施策と並行して、政府内に相談支援や実態把握、施行監視のチームを設けることが望まれます。そのうえで、民間や自治体の相談窓口と連携し、該当する従事者へ迅速に既存制度を行き渡らせるしくみも必要でしょう。

「上乗せ施策」で考えられる2つのパターン

前提のしくみを機能させたうえで、上乗せ施策にはどのようなものが考えられるでしょうか。2つのパターンを想定してみました。

1.公費を使った介護従事者への「危険手当」

臨時的な措置として考えられるのが、新型コロナ感染症をめぐる従事者への「危険手当」です。期中改定による報酬上の加算とするか、すべて税財源による助成金スタイルにするかですが、「一時的な給付」という位置づけが強くなれば、後者の可能性が高くなります。

ただし、補正予算の範囲が多岐にわたれば、政府として「介護現場への集中的な予算投入」には限定的な姿勢を見せるかもしれません。そうした場合によく使われる手法が、「地域医療介護総合確保基金の積み増し」です。

ただし、基金の活用は自治体の事業計画に基づきます。仮に「危険手当」に類する新メニューを設けても、全国一律で実施されるかどうかは自治体次第となりやすいわけです。

2.期中改定による「危険対応」加算

迅速かつまんべんなくという手当の効果を重視するなら、本来は「危険手当」のための交付金を独立した予算措置として設けることが望ましいでしょう。しかし、政府がそれに二の足を踏んでいれば、その間に与党内などから「期中改定で報酬上の加算として設定すべき」という要求が高まる可能性があります。

これを実施するとして、分かりやすいのはサービスにかかわらず(従事者1人あたりに)同単位の加算を設定することです。しかし、現行の処遇改善加算の複雑な設定を見ると、あまり期待できないかもしれません。

たとえば、地域ごとの新型コロナ感染状況や職種ごとの任用要件(介護職と相談援助職など)によって区分分けがなされるかもしれません。事業所・施設における感染対策の基準を設定し、それをクリアすることを要件としてくるというやり方も考えられそうです。

そうなると、算定に向けた事務負担はおのずと増えていきます。ただでさえ、利用者状況の変化で現場の実務負担が増えている中、特に中小規模事業所などの算定ハードルが上がるとなれば、危機対応のための予算措置としては中途半端なものになりかねません。

中長期的視野で見た「介護保険の立て直し」

こうして見ると、政府が二の足を踏んだり適用を厳格化しようとすれば、上記2つの効果はいずれも限定的になる可能性があります。

確かに、今回の新型コロナ対策全般で、国の財政には相当額の負担がかかっているのは間違いありません。しかし、すでに窮地に陥っている現場にこそ広範な支援が行き届かなければ、地域の介護資源が崩壊しかねません。その傷跡は、たとえば感染の「第二波」がやってきた時に、重症化リスクの高い要介護高齢者に深刻なダメージをおよぼします。

そう考えればこそ、地域の介護サービス資源の足腰を立て直すためのビジョンが必要です。具体的には、思い切った基本報酬の再編と引き上げを図ることです。視野に入るのは2021年度の報酬改定ですが、もちろんそれまでの「つなぎ」は当然必要となります。

つまり、第一ステップで「1」で述べた危険手当を(二の足を踏まずに)独立した予算措置で設けること。これを「つなぎ」として、第二ステップで「2021年度報酬改定での基本報酬の再編・引き上げ」を行なうわけです。

確かに今後の感染動向は不透明です。しかし、少なくとも国が先々のルートマップを明確にすれば、現場には大きな勇気づけとなるはずです。それこそが、懸念される「第二波」への強力な防波堤となるのでないでしょうか。

もちろん、基本報酬の再編・引き上げとなれば、利用者負担や保険料の引き上げという議論は避けられません。しかし、それらを含めて国民的な議論を興すことは、「命の防衛」を図るうえで不可欠であり、その覚悟こそが施策者に問われているといえます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。