与野党の施策案は現場を救うか?

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国会での介護現場支援の動きが活発になってきました。与党・公明党は、「介護・障がい福祉分野の支援策拡充」に向けた緊急提言を厚労大臣に提出。一方野党は、立憲民主党などの共同会派と日本共産党が「介護・障がい福祉従事者の人材確保に関する特別措置法案」など3法案を今国会に提出しました。

公明党案の補償と手当の「先」にあるもの

まず、それぞれの提案・法案のポイントとなる点を確認しておきましょう。

前者の公明党の緊急提言は、新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり、介護・福祉サービス現場に対する追加的な対応を求めたものです。前提となるのは、すでに成立した補正予算内の「事業の継続支援策」(無利子・無担保等の危機対応融資の拡充)の速やかな実行と柔軟な運用です。そのうえで、予算の積み増しによる追加的な施策を提案しています。

積み増しする予算枠としては、「地域医療介護総合確保基金等も含め」としていますが、二次補正予算が視野に入っているのは間違いないでしょう。すでに政府内では二次補正予算案を検討する声が上がっていますが、現場として気になるのは従事者への補償です。

これについて、提言内では「介護従事者が感染するリスクが高い中、補償制度がない」として、補償制度の整備と特別手当等の支援策を求めています。加えて注目したいのは、介護報酬の特別加算の検討についても言及している点です。対応としては「期中改定」となる可能性が高いものの、感染収束が見えにくい中では、2021年度の報酬改定の動向にも影響を与えると考えられます。つまり、「緊急提言」とはしているものの、中長期的な介護報酬のあり方にも含みを残しているわけです。

野党法案は2年前のものを修正。違いは何?

一方、野党が提出した「人材確保に関する特別措置法案」の位置づけはどうでしょうか。

この特別措置法案は、もともと2018年6月に提出されたもので、当ニュース解説でも取り上げてきた経緯があります。その後に継続審議となっていましたが、いったん撤回され、新型コロナの感染拡大の状況も視野に入れた新法案として再提出されたものです。

ポイントは大きく分けて2つあります。

1つは、介護・障がい福祉従事者等に対し、平均して1人あたり月額1万円の賃金アップを想定した介護・障がい福祉従事者等処遇改善助成金の支給を行なうこと。上記の「等」とは、事業所の介護従事者以外の従業者(事務職など)も対象にしているという意味です。

過去の提出された法案では、従事者以外の従業者は助成金を別枠にし、「1人月当たり6000円アップ」を想定していました。この2分されていた括りを一つにし、「月額1万円アップ」で統一したことになります。また、注目したいのは、報酬上の加算ではなく助成金であり、必要な財源を確保しつつ「段階的に引き上げる」ことを法律で明記したことです。

2つめは、介護報酬の改定について、すべての従事者等のサービス提供の安定的な継続、離職防止等に配慮しなければならない項目を規定したこと。介護報酬を決める際に、「従事者の処遇改善」という縛りを省令ではなく、法律で設定したことになります。

両者の提言・法案ともに一長一短はあるが…

前者の公明党の提言は、感染防止に向けた物資等の整備・供給から、緊急時のサービス提供にかかるガイドラインの策定、職員・利用者の感染疑い時の対応、そして先に述べた補償の話など幅広く詳細にわたっています。

ただし、まだ法案や予算案という形で具体化はされていません。そのため、規模はどれだけなのか・どのタイミングで施行されるか」が見えにくい状況にあるというのが課題です。

一方の野党法案は、すでに法律の形をとって具体的な枠組みは設定されています。確かに、報酬外の助成金とはいえ「月額1万円は少ないのでは」という印象はあるでしょう。しかし重要なのは、2番目のポイントの「(基本報酬を含めた)報酬設定に、省庁が定める省令ではなく、国会で制定する法律で縛りを設ける」という点にあるといえます。

とはいえ、現状の緊急性と照らした場合、「今あえて出す法案なのか」という疑問は付きまといます。「今(新型コロナ対策が優先され、〈介護保険法を含む〉社会福祉法等の改正案の審議が始まったタイミング)だからこそ、成立させるチャンスはある」という思惑が先に立っている感がないともいえません。

このように、それぞれに一長一短はありますが、共通するのは「次の報酬改定」まで視野に入っている点です。現在、介護給付費分科会の議論は止まったままですが、今回の新型コロナの影響が長期化するとなれば、報酬体系の抜本的な見直しが論点に上がる可能性は高いといえます。両者の案が、その際の議論のたたき台となれば、混迷する介護現場の状況を打開する一歩になるかもしれません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。