介護の負担増見送りは目眩まし 高齢者の生活はさらに厳しくなる


《 淑徳大学・結城康博教授 》

介護保険制度の見直しは3年に1度のサイクルで行われます。前回は2018年度、次は2021年度。利用者、家族、現場の職員らと深く関わる極めて重要な動きです。【淑徳大学教授・結城康博】

小幅に留まった制度改正

政府は現在、2021年度に向けた介護保険法の改正案をこの国会へ提出すべく準備を進めています。厚生労働省を中心として昨年から議論が重ねられ、既に大枠の方向性は固まりました。

どこに注目すべきなのか? 今回の制度改正はやはり、高齢者の負担増のほとんどが見送られたことが大きなポイントではないでしょうか。

財務省などは利用者の自己負担を“原則2割”とするよう強く求めていましたが、政府・与党内での調整の結果、さしあたり現状のまま据え置くことになりました。ケアプランの作成で新たに自己負担を徴収する案(現行は10割給付)なども、結局は採用されませんでした。

確かに、膨らみ続ける給付費をなんとか抑制しようという圧力が非常に強まっているなかで、無理な高齢者の負担増を強行しなかった点は評価できます。厚労省はなんとか踏ん張った、と言うこともできるでしょう。一部の業界の関係者からは安堵の声も聞こえてきます。

医療保険の動向にも注視を

ただ私は楽観視していません。介護の負担増の見送りは、政府の目眩ましではないかと指摘させて頂きたい。

今後、高齢者の生活はさらに厳しくなります。医療費の自己負担が引き上げられることになったためです。介護の専門職の方々には、介護保険だけでなく医療保険の動向もトータルで捉えて日々の支援にあたって頂きたい。

政府は昨年末、現行で原則1割となっている75歳以上の医療費の自己負担を応能負担へ切り替え、一定の所得がある人を2割とすることを決めました。この「一定の所得」をどのラインとするかは、まだ明確に定まっていません。今年の夏までに方針を決めるそうですが、いずれにしても高齢者の家計を直撃することになるでしょう。

一般に、75歳を超えると体が衰えて医者にかかる頻度が増します。だからこそ、医療費の自己負担はこれまで原則1割と低く設定されてきました。

当たり前のことを言うようですが、これが2割に変われば毎回の出費は2倍に増えます。医療は介護より報酬が高いですから、高齢者の生活に及ぼす影響はより大きいと言えるでしょう。

保険料の上昇や増税などが重なり、年金を頼りに暮らす高齢者の可処分所得は減り続けています。医療費の自己負担の引き上げは、やはり非常にシビアな施策だと言わざるを得ません。政府はとても大きな決断を下したことになります。

だからこそ、介護保険の見直しは相対的に甘い中身に留めるしかなかった。もしダブルパンチの形になれば、それだけ政府への批判が強まってしまうからです。

3年後は再び俎上に

私はこれが、介護の負担増がほとんど見送られた最大の要因だと睨んでいます。言わば、医療側の負担増を実現するための激変緩和措置のようなもの。政府は単純に3年間先送りしただけです。次々回の“2024年度改正”に向けたプロセスでは、必ず介護の負担増を改めて俎上に載せるでしょう。

私は介護の自己負担はこれ以上重くすべきでないと思います。ギリギリの生活をしている高齢者が既にかなり多いわけですから、将来にわたって現行の制度を維持すべきではないでしょうか。

政府にはそのための財源確保に力を注ぐことを注文したい。医療費の自己負担を引き上げるなら、なおさら介護の方は慎重に検討すべきだと考えます。

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