認知症関連施策は「線」の太さが大切

昨年6月に「認知症施策推進大綱」が取りまとめられ、2020年(令和2年)度予算案では、同大綱をもとにした新規施策も組まれています。これまでの施策も含めて、認知症の人とその家族の支援の底上げはどこまで図られるのでしょうか。介護現場が直面している課題と絡めつつ、改めて掘り下げてみましょう。

認知症初期集中支援はうまく行っているか?

政府がかかげる推計では、2025年には認知症の人が最大700万人(高齢者5人に1人の割合)に達する──何度も見聞きする数字でしょうが、対象年まであと5年となりました。一方で介護現場の人材不足はさらに進み、現場リーダー等を担う介護福祉士の受験者数も減少しています。認知症対応の人員のみならず、そのマネジメントも手薄になりがちです。

こうした中、当事者の穏やかな生活を築くには、やはり本人や家族の混乱や疲弊した状況を早期から取り除くことが欠かせません。かかわりの初期段階で、いかに本人のBPSDを改善し家族の負担をやわらげていくかが問われるわけです。本来、その役割を中心的に担うのが介護現場ですが、その余裕がなくなりつつある現状では、「初期対応」にかかる現場への支援策の拡充が一刻も早く必要です。

「それこそ認知症初期集中支援チームの役割ではないか」と思われるかもしれません。しかし、2017年度の調査研究(老人保健健康増進等事業)を見ても、本人や家族をめぐる多様な課題に対して「手探り」となる事例も目立ちます。多職種・多機関が複雑に絡むことで、本人はもとより家族も混乱するなどのケースも見られます。包括的支援事業であるだけに、自治体ビジョンがしっかりしているか否かに左右される点にも注意が必要です。

次年度の認知症関連予算。新規分はどこに?

こうした「手探り」等の状況をいかに解消し、安定した運営を確保していくか──これは施策上の大きな課題です。国は、担当者に対する継続的な研修や好事例の横展開などを図っていますが、運営課題が山積する介護現場を支えるうえでは何かが足りません。

それは、(1)早期のBPSD改善や家族の負担軽減にどこまで効果を上げているか、(2)その状態で介護・医療へと円滑にバトンタッチしているか、(3)介護・医療現場の負担減にもつながっているか──について、詳細な全国調査を行なうことです。そのうえで、初期集中支援の再構築を図ることまで見すえつつ、支援策の拡充を図ることでしょう。つまり、PDCAサイクルの発揮が必要なわけです。

しかし、2020年度予算案の認知症施策関連を見ると、新規分は「チームオレンジ」にかかる施策(助成枠の設置とコーディネーターに対する研修)や、日本認知症官民協議会による認知症の人への接遇方法等をまとめたガイドライン作成にとどまっています。

ご存じのとおり、「チームオレンジ」は認知症の人や家族にかかる支援ニーズを認知症サポーターにつなげるしくみです。また、後者のガイドラインは社会全体に向けた普及啓発等の一環です。いずれも、専門職による支援体制が整い、本人や家族がある程度落ち着いた状態を獲得した後の社会的支援と位置づけられます。つまり、その前段階となるサービス基盤がしっかりしてこそ、機能を発揮するものであると言っていいでしょう。

コホート、バイオマーカー、ゲノム研究…

もう一つ、予算の上乗せが行われたのは、認知症研究の推進です。具体的には、長期にわたって高齢者を追跡し、認知症の発症者・未発症者を比較して発症因子を明確化するというものです(大規模認知症コホートといいます)。また、認知症診断にかかる生体内物質にかかる指標(バイオマーカーといいます)やゲノム研究なども含まれています。

こちらは、認知症診断や発症予測にはつながるかもしれませんが、「その後に発症した場合にどうするのか」という部分へと適切につなげられなければ意味はありません。将来的な予防・治療法の開発をにらんだ施策という位置づけでしょうが、今、最優先に解決すべきは「現場負担の軽減」にあるはずです。その点では、「優先順位がちょっと違うのではないか」と思わざるをえません。

確かに、大綱を作成したことで、認知症対策の体系化が図られたという見方もあるでしょう。しかし、具体的な個別施策を見ると、一つひとつの施策同士もしくは既存の介護・医療との間で「線」としてつながっていない感があります。国としては、「そのあたりは次の報酬改定で手当てする」ということなのかもしれませんが、現場の厳しい状況は待ったなしです。トータル125億円という予算について、今からでも上記の「線」を太くすることに注ぎこんでいくべきではないでしょうか。

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