【結城康博】国の介護改革は現場軽視 人材確保の本気度が足りない


《 淑徳大学教授・結城康博 》

介護保険が創設されてから20年の歳月が経過しました。現状をどうみればいいのでしょうか? 暗澹たる思いを募らせる人も少なくないと思います。【淑徳大学 総合福祉学部 結城康博】

厚生労働省は昨年末に社会保障審議会・介護保険部会で意見書をまとめました。これは当面の制度改革の方向性を描く極めて重要なものです。

あまり厳しいことばかり言うのも気が引けますが、やはりここは言わざるを得ません。はっきり言って危機感がない。このままでは「制度あってサービスなし」の時代が本当に来てしまうと危惧しています。

現場はより厳しくなった

介護保険の課題は色々とあるわけですが、私はなんと言っても人材不足が最も深刻だと認識しています。既にかなり危機的な状況にあることは、公表済みのデータをみるだけで容易に確認できるでしょう。

まずは有効求人倍率。昨年4月の状況をみると、全産業の平均は1.38倍で介護は3.80倍となっています。12都府県で4倍を超えており、東京都と愛知県は6倍を上回る超高水準です。

・介護人材の不足

NHKは1月10日、訪問介護に限ってみると有効求人倍率が13.1倍まで上昇していると報じました。人材確保が難しいはずですよね。

そんななか、事業所の経営は一段と厳しさを増しています。

昨年末に公表された「概況調査」。各サービスの利益率が総じて低下していることが判明しました。最大の要因は人件費率の上昇にあると分析されています。既存の「処遇改善加算」では不十分なんですよね。事業所の持ち出しで追加の賃上げを図らないとやっていけないのでしょう。

当たり前のことですが、収益が低下していけば事業所は今まで以上に余裕を持てなくなります。労働環境の改善がうまく進むとは考えられません。むしろ悪化する可能性の方が高い状況にあると言えるでしょう。

今月7日には、人材不足を背景に事業所の倒産が過去最多の水準に至っているとも報告されました。負のスパイラルに陥って抜け出せない現場が少なくないのが実情です。

事業所の職員が加害者となる虐待も大幅に増えました。適性に欠ける人材であっても、とにかく雇わざるを得ない環境が問題の根っこにあります。これでは負のイメージの改善も困難でしょう。現場では実際に悲劇が加速しており、報道機関もまずそれを伝えざるを得ないんですから。

他業界に勝つ気概がない

このままで2030年、2040年にかけて必要な人材を量的・質的に確保していけるのでしょうか?

ネガティブなデータばかりですよね。希望を持てる要素が全く見当たりません。状況を抜本的に変えないといけないのに、あの意見書には最も大事な視点が完全に欠落していました。これでは現場の実態を非常に軽視していると言わざるを得ません。

何度でも言いますが、人材確保は他業界との激しい競争です。スーパーやショッピングモール、飲食など他の業界と競い合って勝たなければいけません。どの業界もこれを死活問題と位置付けて大変な力を注いでいます。

今回の意見書にはそうした記載が全くありません。全産業的な人手不足や賃上げが十分に考慮されておらず、介護業界の中だけの話に終始しています。どうも国は認識が甘いのではないでしょうか。介護サービスをなんとしても充実させていく、という気概、本気度が足りないと疑わざるを得ません。

まずは基本的な認識・姿勢から改めるべきだと思います。それが最初の一歩。他業界との人材競争を勝ち抜くんだ、という意思を速やかに明確に打ち出すべきです。具体策はそこから論じて頂きたい。現場革新や事務負担の軽減も大事ですが、最重要の施策はやはり賃上げだとも付言しておきます。

利用者が選ばれる時代へ

残念ながら現在、利用者主体や介護の社会化といった理念は虚しい幻想となる道を歩んでいます。

このままいけば要介護の高齢者は、事業所を自ら選択する本来の立場を失い、数少ないサービス主体、介護職員から選ばれる立場に追い込まれるでしょう。現場を支える皆さんなら、そうした現象が既にあちこちで発生していることをご存知だと思います。

介護保険の理念を幻想にしてはいけない。軌道を修正するための思い切った施策が必要だ。それこそが今、“介護保険20年”を迎えるにあたって私が痛切に感じていることです。

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