総合事業移行の影響を測る実態統計を

2018(平成30)年度の介護給付費実態統計の概況が公表されています。予防給付を含めた費用額(総合事業移行分は含まない)が、初めて10兆円を超えたことがクローズアップされていますが、これは果たして「高齢者の自然増」だけがもたらしたものなのでしょうか。こうした統計そのものの課題も含めて、少し違った視点で掘り下げてみましょう。

受給者1人あたりの費用が増えている背景

今統計では、全体の費用額に注目が集まりがちですが、ここではあえて「受給者1人あたりの費用額」に注目します。この数字は「各年4月審査分」を対象としたもの(つまり、通年を通したものではない)なので、各年の状況をどこまで正確に把握しているかという課題は残ります。それでも、長期で見た場合の比較から、一定の傾向は把握できます。

ここでは、過去3回の制度改正・報酬改定をまたぐ2011年度からの数字を比較してみましょう。それによれば、2016年4月審査分までは、1人あたりの月額費用は15万7000円台で推移しています。大きな変動はなかったわけです。それが、2017年4月審査分から16万円、17万円台へと急上昇します。

要因として考えられるのが、予防訪問・通所介護(および一部の介護予防支援)が総合事業に移ったことでしょう。要支援者サービスが統計から段階的に外れることにより、残ったサービスは平均をとれば重度の方向へズレることになります。それによって、1人あたりの費用額が高まったというわけです。

総合事業移行が費用額を押し上げていないか

しかし、本当にそれだけでしょうか。ここで問題にしたいのは、要支援者の予防訪問・通所サービスなどが総合事業に移ったことにより、以下の2つの状況が進行している可能性はないかという仮説です。

1つは、基準緩和や住民ボランティア等が主体となる中での現場のスキル不足により、要支援者が一気に重度化する流れが生じつつあるのではないかということ。たとえば、サービスを通じて疾病悪化の予兆を把握したり、重度化予防に向けた機能が衰える中で、急性期へと移行しやすくなり、ある時点から給付額が一気に増えるなどが考えられます。

もう1つは、総合事業のスキル不足を穴埋めするために、(予防ケアマネジメントなどを通じて)看護・リハビリ系サービスを「代替え」として組み込む機会が増え、それが1人あたり費用額を押し上げているのではないかということ。実際、総合事業への移行が本格化した2017年4月から2018年4月の間を比較すると、予防訪問看護・通所リハビリなどの費用の増加が見られます。

もちろん、これらは仮説にすぎません。しかし、1人あたり費用額が増大しているという中では、「一部サービスの総合事業への移行がうまく行っているのかどうか」について、予断を抜きした継続的な調査が必要でしょう。

受給者数のうちの総合事業との関連調査を

国は総合事業の実施状況や無作為抽出による「利用日数変化」などの調査は行なっていますが、上記の仮説を検証できるような調査を「介護給付費実態統計」と絡めて行なう動きは見せていません。介護給付費実態統計は、介護保険制財政のあり方を議論するうえで、ベースとなる調査の一つといえます。この中で、「総合事業が果たしている役割、もしくはその影響」を推し量れるしくみを導入することこそ、施策のPDCAサイクルを機能させるうえで不可欠なはずです。

制度上では、保険者に「PDCAサイクルを強化するための評価指標の確立」を求めています。であれば、司令塔となる国側も「PDCAサイクルの強化」に向けた調査手法の見直しを図ることが求められるでしょう。

たとえば、以下のような手法が考えられます。介護給付費実態統計では、年間の累計受給者数と実受給者数(名寄せしたもの)が示されています。このうち前者については、予防給付サービスにおいて「総合事業を併用している人の割合」を調査します。後者については、要介護受給者について「予防給付からの移行者」や「そのうちの総合事業を併用していた者」の割合を調査するという具合です。

前者において、「総合事業との併用」の割合が増えているとすれば、「総合事業だけではニーズを満たせない」というケースの増加も想定されることになります。後者において、「総合事業を使っている要支援者からの移行」が増えていれば、「総合事業の重度化防止機能に問題がある」という見方も浮上するでしょう。

決して、総合事業をやり玉にあげることが目的ではありません。しかし、「要介護1・2の生活援助なども総合事業に移行する」といった案が出ている中では、それが本当に財政の適正化につながるかどうかを実態統計から検証する機会は必要です(それがないと、科学的根拠のある施策とは言えません)。来年度あたりから、実態統計のあり方を根本的に見直す作業が求められるのではないでしょうか。

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